トランスジェンダーの判決までGHQに結びつける化石老人
その後2人は、昭和30年代、40年代生まれの裁判官たちが、戦後民主主義教育によって「国家は悪」と叩きこまれた影響があると言い出し、「GHQの洗脳政策」を持ち出して、15年前と同じ原稿を使い回しているんじゃないかと言いたくなるような「保守的語らい」に入っていく。
なにかにつけて「GHQの洗脳だ!」と言い出すオジサンはいるが、まさかトランスジェンダーの判決まで、GHQに結びつけるとは……。
日本のさまざまな場面や日本人の感覚そのものにおいて、戦後のGHQによる洗脳が色濃く影響を残していることは事実だが、その一方で、欧米での議論や、左派の言説からも学ぶところがあり、時代の流れとともに感覚を進歩させていかなければならないということが、VRゴーグルをはめた化石老人にはわからないのだから仕方ない。
その後、話は移民政策、中国の侵略に備えよなど、お決まりの会話になってゆき、全体の8割は、最高裁判決とは関係のない、「保守っぽい老人トーク」に終わっていた。
「最高裁がとんでもない判決を下した」と切り出しておきながら、結局、「女湯に変態が入ってくるぞ!」という雑な妄想以外には、具体的になにも考えていないのである。
今回の判決は、トランスジェンダーに対する理解が進まない原因の1つとして、「違和感があるように見える」とか「意見は聞いていないけど、きっと嫌がっているのでは?」というような主観や、個人の想像に基づいて判断するのでなく、問題をもっと具体的・客観的に捉えて、理解を深めていくべきだという考えを示したものだ。
「女性として生活を送るAさんが、2階以上離れたトイレを使うよう制限されている不利益」と、「他の女性職員たちが、Aさんと一緒にトイレを使うことの不利益」とを天秤にかける。
すると、「他の女性職員たちには、具体的にどんな不利益があるのか?」「それは正当な不利益と言えるのか?」「なぜそう思ったのだろうか?」という問いが現れ、具体的・客観的に考えていけば、「今まで、理解が足りていなかったり、勘違いしていたりする部分がありましたね」という知性的な判断に至る。
一方、知性とは真逆の方向へ、蒙昧無知のままの老人たちが逃げ込む場所は、「化石クソ老人の保守トークをくり返していられるVRゴーグルの世界の中」。それは同じ化石クソ老人ばかりが買っている『月刊WiLL』『月刊正論』というわけである。
いっそ『WiLL』『正論』というバーチャルクソ空間でも作って、みんなでゴーグルをはめて、それぞれ自室に籠って幸せに座っていてほしい。
(『小林よしのりライジング』2023年8月22日号より一部抜粋・文中敬称略)
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