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「どうにかしてやれよ」木原誠二事件の幕を引いた“官邸の守護神”の名前

週刊文春の報道により大きな注目を集めることとなった、木原誠二官房副長官の妻「元夫不審死事件」。当の木原氏はだんまりを決め込んだままですが、その裏で粛々と事件の幕引きが進んでいたことが判明しました。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、文春オンラインに掲載された「幕引き劇」の一部始終と、火消しを命じた官邸の守護神の名を紹介。その上で、報じられた内容が事実であるならば我が国は「民主主義国家として失格」との厳しい見解を記しています。

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木原誠二官房副長官の妻「元夫怪死事件」の捜査幕引きに暗躍した官邸の守護神

妻の元夫の不審死事件をめぐる週刊文春の一連の報道で記者の前から遠ざかっていた内閣官房副長官、木原誠二氏は、岸田首相の米国訪問に同行するなど、以前の仕事ぶりに戻りつつある。

大手メディアがこの件に関して沈黙を続けているのをこれ幸いと、文春側の熱が冷めるのを待っているように見えるが、内心は、薄氷を踏む思いではあるのだろう。

木原氏が表面的にせよ強気を装っていられるのは、警察庁と警視庁が、木原氏の妻の疑惑を打ち消し、事件性はないと公式に表明しているからにちがいない。不審死事件を再捜査したさい木原氏の妻、X子さんを取り調べた元警視庁刑事、佐藤誠氏が「あれは事件だ。自殺だと言える証拠はない」と断言するにもかかわらずである。

今回の件で、浮かび上がっているのは警察上層部と、実際に捜査にあたる刑事たちとの意識の乖離だ。

週刊文春が、X子さんの元夫、安田種雄さんの死にまつわる疑惑を報じ続けていられるのも、取材によって数多くの捜査員や元捜査員たちから証言が得られているからだろう。記事を読めば、証言の具体性、信ぴょう性が伝わってくる。佐藤氏も捜査を完遂できなかった悔しさを胸に、あの記者会見にのぞんだにちがいない。

安田さんの遺族は、事件の真相を闇に葬ってはならないという文春報道や捜査員の思いに勇気づけられ、先月17日、警視庁大塚署あてに「再捜査の続行」を求める上申書を提出した。だが、それに対して8月9日、警視庁捜査一課のW警部が捜査終了を告げるための説明を遺族にしていたことが明らかになった。文春オンラインにこう書かれている。

「捜査の結果、部屋の状況やご遺体の状況から、争ったような跡は認められなかったんですね。自殺と考えて矛盾はありません」

 

8月9日午後4時、警視庁世田谷署内の一室。捜査一課特命捜査第一係長のW警部は、安田種雄さん(享年28)の父、2人の姉と向き合うと、事前に用意された“模範解答”を淀みなく披露した。

“模範解答”は、警察組織の「事件性はない」との判断に平仄を合わせるための「嘘」だと文春の記事は断定し、「彼らはいかにして無理筋の結論に至ったのか」として、次のような事実を提示した。

7月26日の夜のこと。警視庁の重松弘教刑事部長の執務室に集まったのは、刑事部のナンバー2である井ノ口徹参事官と、國府田(こうだ)剛捜査一課長だ。(中略)警視庁幹部が膝を突き合わせたのは、組織のトップの“鶴の一声”がきっかけだったという。

 

「露木長官が『火消しをしろ』と重松部長に命じたそうです。後輩の露木長官に『どうにかしてやれよ』と発破をかけたのは、元警察庁長官で現在は木原氏とともに官房副長官を務める栗生俊一氏だったそうです」(捜査関係者)

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警察組織内に渦巻く上層部の動きへの不満と不信

露木長官とは言うまでもなく、警察庁のトップ、露木康浩長官である。7月13日の定例会見で、「法と証拠に基づき、適正に捜査、調査が行われた結果、証拠上、事件性が認められないと警視庁が明らかにしている」と説明し、いち早く事件性を公式に否定した人物だ。

そして、その露木氏に「どうにかしてやれよ」と働きかけたのが、内閣官房副長官、栗生俊一氏だというのだ。官房副長官は3人いて、そのうち事務担当が栗生氏、政務担当が磯崎仁彦氏と木原氏の二人である。この記事の通りなら、栗生氏が同僚のために一肌脱いだということになる。

栗生官房副長官が、警察庁の露木長官に「どうにかしてやれよ」と言い、露木長官が警視庁の刑事部長に「火消をしろ」と命じた。もしこれが事実でないとすれば、強大な警察権力相手に文春が虚偽情報をでっち上げたことになってしまう。よほどの確信がなければ書けない話であろう。

事実なら、警察の内部から文春側に伝わったとしか考えられず、上層部の動きへの不満、不信が、よほど警察組織内に渦巻いていると推察できる。

栗生官房副長官は2020年1月まで警察庁長官だった。露木警察庁長官はもちろんその後輩にあたる。警視庁の重松刑事部長もまた警察庁入庁のキャリア官僚だ。

政権中枢にいる栗生氏の意向に沿って、後輩の露木氏と重松氏が動くというのは、いかにも日本の官僚組織らしいといえるが、そこに事件の真相解明にあたるべき警察の使命感は、カケラもない。警察は誰のため、何のために存在するのかという疑念は膨らむばかりだ。

次官連絡会議を運営し、各省間の調整にあたる事務担当の官房副長官は、官僚機構のトップといえるポストである。代々、警察庁、自治省、厚生省といった旧内務省系の出身者が任命されてきた。1947年にGHQによって解体されるまで最有力官庁だった名残を今に至るまでとどめているからだ。

内務省は戦前、警察権力を背景とし、強大な支配力をふるった。府県知事として内務省官吏を派遣し、地方行政を完全に支配。警保局が各府県警察の特別高等警察を直接指揮して、思想統制と取り締まりを行った。

国家の体制を護持し、それに反対する勢力を弾圧するという内務省的なスピリットを受け継いできたのが、まさに官房副長官というポストといえるかもしれない。とりわけ、第2次安倍政権以降、警察権力と官邸が一体となって、政権維持のための危機管理にあたる傾向が強まった。

安倍、菅政権では元警察庁警備局長、杉田和博氏が9年間も官房副長官をつとめ、内閣人事局長を兼務して、霞が関を牛耳ってきた。岸田政権もそれを踏襲し、元警察庁長官の栗生氏をこのポストに据えた。

警察庁キャリア出身の官房副長官が、首相に期待されているのは、政敵やマスコミの反政府報道から、首相とその周辺を守る役割だ。

わずか600人程度といわれる警察庁キャリアは、捜査畑や交番勤務など現場を経験することがほとんどない。若くして県警の幹部や警察署長となり、組織の中で順次、昇任していく。

つまり、主な仕事内容は「指示・命令」、そのための「情報収集」である。30万人近い全国の警察官組織からもたらされる情報力はすさまじく、スキャンダルまみれの政治家を生かすも殺すも、一握りのエリート警察官の手の内にあるといっても過言ではない。

その組織のトップ経験者が官房副長官として政権の守護神となり、警察のトップ人事と予算を政権が握るという、もたれ合い関係は、双方にとってこの上もなく都合がいいのだ。

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東京地検、警視庁刑事部も受理していない木原氏の告訴状

警視庁の重松刑事部長室における7月26日の密談で、幹部たちが「事件性がない」ことにするために苦心惨憺した様子が文春の記事に描かれている。

夜遅くまで続いた“三者会談”では、國府田一課長が「自殺と考えて矛盾はない」とするロジックを披露。捜査一課長を歴任した井ノ口参事官は後輩の意見に耳を傾けていたが、やがてこう口にする。

 

「自殺とする根拠がない。さすがにマズいだろう」

 

だが、最後は重松部長がその場を取り成した。こうしたお粗末すぎる三者会談の結果、警察は木原事件の重い扉を閉じることを決めたのだ。

根拠がないのに、政治的判断で、自殺とする無理なロジックを通してしまったということなのだろう。この決定を受けて、W警部が安田さんの遺族に無理筋の説明をしたようだが、現場の捜査員にしてみれば、やりきれない話にちがいない。上司の命令とはいえ、W警部自身もつらかったのではないか。

木原氏は文春報道を「事実無根」と主張し、刑事告訴したと言う。それに対し文春は記事のなかで、東京地検、警視庁刑事部のいずれも告訴状を受理していないとする司法担当記者や警視庁幹部の声を掲載している。

木原氏が刑事告訴をしたのであれば、どの捜査機関に告訴状を出したのか、今すぐ公表するべきであろう。刑事告訴をし捜査機関がそれを受理すれば、真相解明のために再捜査せざるを得なくなるはずだ。ぜひともそうなってほしい。

時の政権の利をはかるため秘密裏に警察の捜査をゆがめたとすれば、民主主義国家として失格である。まずは警察庁出身者を官房副長官に充てるという定番人事から見直さなければならない。

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image by: 首相官邸

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