アメリカの「言動と行動の不一致」を指摘する非難も
その理由は、各国がイスラエル・ハマスの仲介役として期待しているエジプト政府が、すでにアメリカの艦隊のプレゼンスを受けて態度を硬化させ、結果的にアラブ寄りの姿勢、つまりパレスチナとの連帯をアピールせざるを得ない立場に追い込まれるため、仲介役としては適さないことになってしまうからです。
エジプトは1979年にイスラエルと国交を樹立しており、アラブとイスラエルの橋渡し役を期待されていますが、今回、ハマスからの攻撃に対するイスラエルの苛烈な反撃を見て、アラブ諸国グループでの自国の立ち位置に鑑みてイスラエル非難を行わざるを得ない状況になっています。
2つめの理由としては、国際社会におけるアメリカの対応のずれを指摘する声の拡大です。
昨年2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が起きて以降、アメリカ政府は他から突出するレベルの軍事支援をウクライナに行ってきましたが、今回のイスラエルのケースのように、抑止のための艦隊派遣というレベルにまで至っておらず、あまり表立っては報じられていませんが、言動と行動の不一致を指摘する非難も起き始めています。
「イスラエルはすぐに艦隊を送って連帯を示すのに、ウクライナの場合は武器を送って終わりなのか?」
若干こじつけのような気もしますが、そのような声も出ていますし、実際にアメリカ議会共和党でウクライナ支援の拡大・延長に反対し、今回のハマスによるイスラエルへのsurprise attackをバイデン政権の落ち度とするMAGA(Make America Great Againというトランプ前大統領の支持勢力)派の議員からは「これこそがバイデン政権の虚構であり、国際社会におけるアメリカのプレゼンスを貶める姿勢だ」という非難も出ているようです。
近日中にイスラエル軍の地上軍が投入され、空軍によるガザ地区への空爆が激化すると見込まれる中、アメリカはアラブ諸国にイスラエルとの融和を強く進めつつ、空母攻撃群を送り込んで力で脅すのかという非難の声が、アメリカに近いとされてきたサウジアラビア王国やUAEなどのアラブ諸国から上がっています。
通常アメリカが非難し、イスラエル支援の理由に立てている“イランの直接的な関与の有無”は、実は今回、アラブ諸国ではあまり問題視されておらず、イランはアラブ諸国と共にパレスチナとの連携を示しています。
それゆえでしょうか。珍しくアメリカもイランの直接的な関与について明言は避けています。逆に「ハマスやヒズボラと近い関係にあるイランが停戦に向けて働きかけてくれないか」とさえ期待している声もあると聞きます。
イランを直接的に非難していないのには別の理由が考えられます。1つは、アメリカがウクライナ支援とイスラエル支援を同時進行しつつ、高まるインド太平洋地域での中国との緊張関係に備えることは極めて難しいという現実と認識です。
9月末に連邦議会での予算審議がうまく行かず、もう少しのところで連邦政府機関の一時閉鎖もやむを得ないという状況に陥り、何とかlast minuteで予算案は合意されましたが、そこにウクライナへの支援継続に関係する予算は盛り込まれておらず、現行の対ウクライナ支援予算は年末には枯渇すると言われています。
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