話し合いのための準備を着々と進めるトルコ政府
これまでのところ、すでにイスラエルとハマスに対して停戦協議のための提案を送っているのは、中国とロシアなのですが、ウクライナのケースとは違い、当事者たちが意外にも聞く耳を持っているように見受けられます。
特に中国はサウジアラビア王国とイランの歴史的な“和解”を仲介したことで、アラブ社会からの信頼が厚く、パレスチナ以外のアラブ諸国との衝突は避けたいイスラエル政府も中国の関与には関心を示しています。ただ、イスラエル絡みの案件ですので、恐らくアメリカ政府が横やりを入れてきて、中国による仲介は不発に終わるかと思います(その背景には、サウジアラビア王国とイランの和解はアメリカにとってはサプライズであり、顔に泥を塗られたとの印象があるため、これ以上、自らの勢力圏で中国に好きなようにされたくないという“一方的な”思いがあります)。
ではUNはどうでしょうか?ロシアによるウクライナ侵攻以降、完全にP5が分裂し、安全保障理事会の機能がマヒしている現状では、UNによる調停努力は出来ないでしょうし、何よりもパレスチナはUNの加盟国ではないため(しかし138か国が国家承認している)、ルール上、UNによる介入もグレーゾーンです。
そしてUNならではの事情ですが、私が在籍していたころにもよく問題になっていましたが、国連、特に安保理の場でイスラエル案件を議題にして、決議を取ることは、アメリカ政府の拒否権対象になるため、現実的ではありません。
ここで名乗りを上げてくるのが、お馴染みトルコです。
トルコ政府は10月7日のハマスとイスラエルの交戦以降、双方に対して自制を促し、民間人をターゲットにしないように忠告すると同時に、早期停戦のための話し合いの場を設ける用意があると呼びかけています。
解決の糸口が見えない今回のような案件において大事なことは、
【誰を当事者と見なすか】(今回の場合はイスラエル政府とハマス、たぶんパレスチナ自治政府)
【コンタクト・話し合いのチャンネルを少なくとも1本は確保し維持すること】
そして
【サイドを取らないこと】
です。
トルコ政府のスタンスでは
【当事者はイスラエル政府とハマスであり、パレスチナ自治政府は停戦協議の当事者ではない】
【トルコ政府から公式に仲介の労を担う用意がある旨伝えつつ、インフォーマルなコミュニケーション・チャンネルをイスラエル政府とハマス両方と築く】
【ハマスとパレスチナ自治政府を分けて扱い、ハマスによる軍事攻撃とイスラエルによる反撃に関する仲介・調停の必要性と、パレスチナ全体・国民に対する支援の必要性とは分けて扱う】
ということになっています。
10月12日現在、トルコ政府による公式な仲介・調停プロセスは、その開始のための基盤(双方による話し合いの意思表示)が出来ていないためスタートしていませんが、先述の通り、トルコ政府およびlike-mindedな国々の後押しを受け、調停グループを通じてインフォーマルなコンタクトは始めており、イスラエル政府とハマスに紛争と戦闘のエスカレーションを自制するように促しつつ、話し合いのための準備を着々と進めています。
【ハマス側を誰が代表できるのか】というコンタクトポイントを特定するのに手間取っていますが、非公式プロセスはゆっくりではありますが、前進しています(とはいえ、見通しは決して甘くはないですが)。
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