アラブ諸国の黙認を受けイランが積極介入してくる危険性も
ところでトルコですが、昨年来、いろいろな国際紛争において仲介の労を担おうという動きが活発化しています。
今回のイスラエルとハマスの紛争もそうですが、私も関わったナゴルノカラバフ紛争の紛争調停と停戦協議でも、アルバニアの後ろ盾としてのロシアと共に、アゼルバイジャンの後ろ盾としてトルコは主導的な役割を果たしましたし、まだ停戦には遠いですが、ロシアによるウクライナ侵攻直後に早期解決を狙ってロシアとウクライナの停戦協議の場を設定し、仲介役を務めました。
その狙いは【一度衰退したプレゼンスを取り戻し、再び国際情勢の中心に躍り出たい】というカムバック願望もありますが、実際のところは、トルコの地政学的な位置づけによるものと考えます。
ナゴルノカラバフ紛争の場合、アゼルバイジャン人とトルコ人は人種的に同系統であり、共にイスラム教の国であるという近似性から、アゼルバイジャンをサポートしたという特徴に加え、トルコ政府が進めている東進(中央アジアおよびコーカサスへの勢力圏拡大)の方針も合致しているため積極介入し、トルコの足跡を地域に付けていっていると言えます(そしてカザフスタンと組み、エネルギーと貿易の回廊を作るという経済的な狙いにも合致します)。
ウクライナ紛争では、ロシアとウクライナ双方にチャンネルを持つ国という位置づけと、両国に近接するという地理的な位置づけを理由に調停・仲介の労を担っていますが、これはインフォーマルな交渉プロセスの観点からは望ましいアプローチと言えます。例えば話し合いの場をロシアとウクライナにとっての第3国であるトルコに設置し、当事者の安全管理や情報の秘匿管理などを担うことで、調停役としての条件は整えています。
これまでのところ、まだロシア・ウクライナ間で停戦協議の場をオフィシャルに設ける機運も基盤も揃っていませんが、早ければ来年早々にも、話し合いの場を設ける機会が浮上するかもしれず、その時にはトルコはまた大きな役割を果たそうとするだろうと思われます。
そして今回のイスラエルとハマスの紛争でも機が熟せば、それなりの役割を果たしてくれると期待しています。
しかし、イスラエルとハマスの紛争については、現在、エスカレーションステージにあり、今後、この紛争が地域紛争、または世界的な紛争に発展する危険性をはらんでいます。
11日にカイロで開催されたアラブ連合の外相会議では“イスラエルとハマス双方に自制を促す”という段階で収まっていますが、今後予想されるイスラエルによる地上軍によるガザ地区への侵攻と空爆が一層激化する場合には、アラブ諸国の感情が大きく変わり、再び強いAnti-イスラエルの機運が醸成されることとなります。
そうなると、現在、すでに戦闘に加わるハマスとヒズボラ、そしてシリアの武装組織のみならず、アラブ諸国の黙認を受けて、イランが積極的に介入してくる危険性が出てきます(これはこれまでの中東戦争とはまた違った図式です)。
その場合、イスラエルは強大な軍事力を誇るとはいえ、ハマス、ヒズボラ、シリア、そしてイランを相手にしなくてはならなくなり、アラブ諸国の非協力姿勢に直面することになると、イスラエルは周囲を再び敵に囲まれることになる恐れが出てきます。
そうなるとイスラエルの頼みは欧米になりますが、アメリカはともかく、欧州各国はイスラエル軍によるパレスチナの一般市民に対する無差別攻撃と、ガザのライフラインを完全封鎖するという非人道的な行ないを非難する立場に立つことが予想されるため(欧州各国は「ハマスは責めを負うべきだが、パレスチナの人々に罪はなく支援を必要とする立場にある」と認識している)、イスラエルは地中海を隔てて近接する欧州の支持を失い、さらなる孤立を深める危険性が高まります。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









