ウクライナ支援からの撤退というアメリカの現実的な行き先
そこで超党派で支援に合意できそうなイスラエル支援とウクライナ支援を抱き合わせにして追加予算を成立させたいとの思いがバイデン政権にあるようですが、共和党の多数はそのアイデアに後ろ向きです(「イスラエルへの支援はまじめに考えるが、ウクライナとは別の話だ」というのが多数派の意見です)。
イスラエルを見捨てるわけにはいかず、かといってアジア太平洋地域で高まる中国の影響力に対抗せざるを得ないというチョイスをしてしまったバイデン政権の“現実的な”行き先は【ウクライナ支援からの撤退】と【イスラエル・ハマス(パレスチナ)問題に過度に頭を突っ込まないこと】になってしまいます。
超イスラエル寄りであることは国内外で明らかであることはアメリカ政府もよくわかっているので、代わりの仲介・調停役を探しているのですが、これがなかなか難航しています。
頼りにしているのは、隣国エジプトですが、立場上、すでにアラブ・パレスチナ寄りのスタンスを取らざるを得ず、11日にはカイロでアラブ連合の緊急外相会合を主催して「パレスチナとの連帯」を宣言するとともに、イスラエル・パレスチナ(ハマス)双方に対して民間人への攻撃を即時に止め、イスラエルが行うガザ地区の完全封鎖を深刻な人権侵害と糾弾する中心的な役割になっています。
サウジアラビア王国もモハメッド・ビン・サルマン皇太子が7日のハマスの攻撃以降、「サウジアラビア王国は常にパレスチナと連帯する」と宣言していることもあり、仲介役としては使えないというのが、アメリカ政府の見解のようです(個人的には、アメリカがその差配をしているのが、どうも気になりますが)。
個人的にはサウジアラビア王国は、現在、アメリカの仲介でイスラエルとの関係改善の協議をしており、イランとも建設的な外交関係を築くことに合意しているという点から、仲介役としては“ありうる”選択肢だとは思いますが、アメリカおよび欧州各国は、そうは考えていないようです。
では誰が仲介役として適しているでしょうか?
エジプトが今回は適していない理由は先ほどお話ししました。
スイス政府が公式にハマスに対して停戦を呼び掛け、望めば仲介の労を担うと連絡したようですが、これはハマスに対してのみ停戦を呼び掛けたため、ハマスからは受け入れられる可能性はゼロです。
ただ、“西側諸国”で唯一、スイス政府だけがハマスとの直接的なコンタクトを持っており(ジュネーブにハマスの代表事務所があるから)、今後、スイスが中立の立場を鮮明にできれば、大きな役割を果たすことが出来るかもしれません。
サウジアラビア王国やUAEなど中東諸国は双方に自制を求めつつ、「我々は常にパレスチナと共にある」と述べている段階で、イスラエル側からの受け入れは不可能だと思われます。
イランは今回のハマスの攻撃については直接的な関与はなさそうですが、ハマスやヒズボラ、シリアの武装組織などへの継続的な軍事的・経済的な支援の歴史と、イスラエルとイランの高まる緊張ゆえに、仲介役には向きません。
欧米諸国がだめなのは、ウクライナのケースと同じくサイドを取っているからですが、今回、G7の中で欧米諸国に追従しなかったカナダと日本はどうでしょうか?
話し合いのテーブルをセッティングできる可能性は、他のG7諸国よりは高いかと思いますが、近日中に実現する可能性はほぼゼロですし、調停や仲介に乗り出すためのリソース(特に地域における信頼)はありません。
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