北朝鮮が偵察衛星を打ち上げた3日前、18日は北の「ミサイル工業節」という記念日でした。1年前の同日は、ミサイル「火星17」発射に金正恩の娘とされる「金主愛」という少女の姿が見られましたが、今年の同記念日に関する公式報道は一切ありませんでした。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では宮塚コリア研究所の専門研究員である新井田 実志さんが、北の記念日が「封印」されたことから、金正恩の娘に関する「何かしらの葛藤」があったのではないかと推測しています。
※本記事は有料メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』2023年11月23日号外です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
封印されたミサイル工業節~それは金正恩の娘を巡る葛藤の表れなのか?
11月5日の朝鮮中央通信は、最高人民会議常任委員会常務会議において、11月18日を「ミサイル工業節」として制定する政令を採択したと報じた。同日は昨年、ICBM(新型大陸間弾道ミサイル)「火星17」の発射試験に成功した日である。
中央通信報道はミサイル工業節制定の意義を以下のように説明している。
「ミサイル工業節の制定は偉大な党中央の指導の下に世界的な核強国、最強の大陸間弾道ミサイル保有国の威容を満天下に轟かせた主体111(2022)年11月18日を我々式国防発展の神聖な旅程として特記する大事変が成し遂げられた歴史の日として永遠に記録し、我が国家の無尽莫強な国力をより一層粘り強く固めていく朝鮮労働党と共和国政府、全国全体人民の確固不動の意志の発現となる」
「神聖な旅程として特記される大事変」とは、すなわち金正恩の領導の成果である。金日成時代には「不滅の歴史」、金正日時代は「不滅の嚮導」と、指導者の業績を称える叢書や記録映画が編まれており、金正恩に関しては2020年から「不滅の旅程」と題するものが打ち出されている。ハングルで北式でリョジョン「旅程、南式の表記ではヨジョン)」とは“金正恩革命史”の隠喩なのである。
ところが不思議なことに、肝心のミサイル工業節当日、北朝鮮の公式報道は記念日に一切触れることがなかった。翌日以降も同様であり、公式報道上に「ミサイル工業節」という言葉が登場したのは、政令の制定が唯一なのである。これは一体どういうことなのか。
そもそも、「最強の大陸間弾道ミサイル保有国の威容を満天下に轟かせた」ことを記念するのならば、「火星17」は南で“怪物”と形容される大型ミサイルとはいえ、技術的には初めて固体燃料を使用した「火星18」の方がより高度なもののはずであって、その発射に成功した4月13日の方がミサイル工業節にふさわしいとも思える。
そこで想起しなければならないのは、昨年11月18日が金正恩の娘・金主愛とされる少女の姿が初めて公にされたということであろう。筆者は今のところ「金主愛後継者説」に組する立場ではないが、彼女が「火星17」発射の場に立ち会ったことが“革命領導”の“最初の足跡”だったと位置づけるならば、日付の選択に合理性は高まる。しかし、そうであるならば余計に、制定後初の記念日がなにゆえに“封印”されてしまったのかという疑問も深まるのである。
ミサイル工業節の3日後、偵察衛星「万里鏡1号」が打ち上げられ、発射場では金正恩が参観したことが報じられた。しかし、その画像をつぶさに見ても金主愛らしき姿はどこにも見当たらず、報道上でも触れられなかった。以下は現時点での全くの想像(妄想)だが、北朝鮮中枢において彼女を取り巻く何らかの葛藤が起きているのかもしれない。今後の「旅程」を引き続き注視しなければならない。
(宮塚コリア研究所 新井田 実志専門研究員)
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