電撃解任から復帰までの4日間に起きていたこと
興味深いことに、OpenAIは、非営利団体のOpenAIの取締役会が営利団体も100%コントロールするという、ちょっと変わった企業統治の仕組みを採用しました。非営利団体と営利団体では、利益相反があって当然ですが、そこを一つの取締役会が仕切る、という体制です。そして、「人類全体の利益を、営利団体の株主の利益よりも優先する」と明記してあります(OpenAI:「Our Structure」)。
OpenAIは、GPT3で既に世界の最先端を走っていましたが、2022年11月にそれをChatGPTという形で一般消費者向けに提供したところ、それが前代未聞の大ヒットとなり、Googleすら羨む、人工知能業界のリーダー的存在に躍り出ました。
2023年にはMicrosoftが$10billionの追加投資を行い、OpenAI Global(営利企業側)の49%の株式を取得しました。その契約の中には、
- OpenAIは、Microsoftのインフラを使わなければならない
- Microsoftは、OpenAIの持つ技術全てを自由に自社サービスに活用できる(ただし、OpenAIがAGIを達成するまで)
という条件が含まれていました。
$10billionの投資の大半は、現金ではなく、Microsoft Azureのクレジットだ、というリーク記事(「OpenAI has received just a fraction of Microsoft’s $10 billion investment」)もあります。
そして、OpenAIがAGIを達成したかどうかに関しては、OpenAIの取締役会が決める、という規定だったそうです。OpenAIが、AGIの危険性および、その価値を非常に重視していた結果、こんな契約になったのです。
ここで注目していただきたいのは、異なるゴールを持つ非営利団体の取締役会が営利団体を統治し、「人類全体の利益を、営利団体の株主の利益よりも優先する」という通常あり得ない統治体制を持っている点です。通常であれば、こんなところに投資をする投資家はいませんが、Sam Altmanが持つ「現実歪曲空間」とOpenAIが持つ大きなポテンシャルに、投資家たちもMicrosoftも魅入られてしまったからこんな統治体制を許してしまったのです。
今回の事件は、11月17日にその取締役会が突如Sam Altmanを解雇することを発表して始まりました。明らかに株主の利益を損なう行為ですが、そんなことが可能だったのは、この異常な統治体制ゆえのものなのです。
取締役会は、解雇の際に「Sam Altmanは取締役会に対して正直ではなく、CEOを任せておくことは出来ない」と発表はしましたが、その後、具体的な理由に関しては、公には発言していません。
状況証拠として、
- 直前のインタビューで、Sam Altmanが「OpenAI社内で、4つ目の大きな技術革新が起こった」と発言(参照)
- 直前のインタビューで、Ilya Sutskeverが「今のやり方を続けていけばAGIの達成は可能」と発言(参照:[No Priors Ep. 39 | With OpenAI Co-Founder & Chief Scientist Ilya Sutskever](No Priors Ep. 39 | With OpenAI Co-Founder & Chief Scientist Ilya Sutskever))
- Ilya Sutskeverが最近になって、AGIの危険性について警告する発言をしてきた事
- Ilya Sutskever自身が、取締役の一人として、Sam Altmanの追放に票を投じたこと
などがあったことを考慮し、OpenAI内部でAGIと呼べるほどの人工知能の開発に成功し、その扱いに関して、Sam Altmanと取締役会の間で意見が分かれた結果、Sam Altmanが解雇されたと解釈して良いと、私は理解しました。
実際の解雇の経緯がどうだったのかは今後の調査で明らかになると思いますが、取締役の一人として、Sam Altmanを追放した側に立った Helen Toner氏が、彼女が書いた論文(「Decoding Intentions: Artificial Intelligence and Costly Signals」)で、OpenAIのアプローチを批判しつつ、ライバルのAnthropicのやり方と称えており、それに怒った Sam Altman が Helen を取締役から外そうと試みた結果、彼女の反撃を受けて解雇された、とする記事がNew York Timesに掲載されましたが(Sources: 「before his ousting, Sam Altman moved to push out board member Helen Toner over a paper he thought was critical of OpenAI, among other board tensions」)、それとも整合性があります。
その記事には、彼女が、Sam Altman氏の解雇の直後に、「取締役のミッションは、人類全体の利益であり、もしSam Altmanの解雇によってOpenAIが破綻したとしても、それはミッションに合致したものだ」と社内で発言した、と書かれています(参照)。
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