11月17日、突如CEOのサム・アルトマン氏の退任を発表したOpenAI。世界をリードする企業のCEOの「事実上の解任劇」とあって国際社会は大きく揺れましたが、4日後の21日に同社からアナウンスされたのは、アルトマン氏のCEO復帰の報でした。OpenAIや周辺に、一体何が起きていたのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、Windows95を設計した日本人として知られる中島聡さんが、その全真相を徹底解説。さらにこの解任劇で誰より評価されるべき人物の名を挙げ、その理由を記しています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
「OpenAI」CEO電撃解任&復帰ドラマの背景と全真相
日本でも報道されていると思いますが、OpenAIの取締役会が突如CEOのSam Altmanを解雇して以来、大変な事件に発展しています。時系列的には、
- OpenAIがSam Altman(CEO)の解雇を発表
- Greg Brockman(President)がそれを受けて辞任を発表
- 大株主のMicrosoftが交渉に参加
- OpenAIが新たなCEOとしてTwitch創業者のEmmett Shearを任命
- Sam AltmanのOpenAIへの復帰はないとIlya Sutskeverが発言
- Satya Nadellaが、Sam AltmanとGreg BrockmanをMicrosoftに向かい入れることを発表
- OpenAIがライバルのAnthropicとの合併を模索中と報道
- OpenAI社員らによる「Samを復帰させない限り辞職する」という署名活動がスタート(最終的に770人中710名がサイン)
- Ilya SutskeverがSamの解雇に賛成したことを謝罪し、署名活動に参加
- Sam Altmanが再びOpenAIとの交渉を再開
- OpenAIがSam AltrmanとGreg Brockmanの復帰を発表
ということがわずか4日間の間に起こりました。
個々の報道だけを見ていても流れが理解しにくいと思うので、まずは背景から解説します。
OpenAIは2015年にSam Altman、Elon Muskらによって設立された、「人類全体のためになる人工知能を作る」という目的で設立された、非営利団体です。当時、人工知能の研究開発に関しては、Googleが世界の先頭を走っており、そのままだと、一営利企業が、人間の能力を超える汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)を独占的に持つ歪な世界になってしまうことを懸念した結果、作られたものです。
OpenAIは、Elon Muskが取締役、Sam AltmanがCEO、Googleから引き抜いた超一流の人工知能研究者Ilya Sutskeverを技術のトップに置き、「人類のためになるAGI」を作るべく、研究開発を始め、画像生成AIであるDall.e、LLM(大規模言語モデル)であるGPTなどを発表しました。
当初は、全ての研究成果をオープンにする形で進めていましたが、人工知能の研究開発に必須なGPUの高騰により、非営利団体のまま世界の最先端を走ることが難しくなってしまいました。
その結果、CEOのSam Altmanは、非営利団体であるOpenAIの下に、営利団体であるOpenAI Globalを作り、そこに投資家から資金を集めて、Googleに対抗する、という戦略を採用しました。Elon Muskは、その方向性に賛成できずに取締役会を離れ(2018年)、Sam Altmanのビジョンに共感したVC(Khosla VenturesとReid Hoffman Foundation)が投資家として参加し、その後Microsoftが巨額の資金($1billion)を投入して、OpenAI Globalの大株主になりました(2019年)。
この時に、OpenAIが採用したのが、“capped-profit”という仕組みです。営利企業ではありながら、株主に対する利益の還元には上限があり(最初の投資家の場合100倍)、それを超えた分は、全て非営利団体側が受け取る、というものです。これは、「人類全体のための人工知能を作る」という非営利団体のミッションを維持しつつ、投資をするからにはリターンが欲しい、という投資家の要望に応えるために作られた世界初の仕組みです。
この記事の著者・中島聡さんのメルマガ