「分割」から逃れられないウクライナ
さて、他の2つの戦争はどうなるだろうか。ブレマーの今年のリスクNo.3は「ウクライナ分割」である。
▼ウクライナは今年、事実上分割される。ウクライナと西側諸国にとっては受け入れがたい結果だが、現実となるだろう。少なくとも、ロシアは現在占領しているクリミア半島、ドネツク、ルガンスク、ザポロジエ、ヘルソンの各州(ウクライナ領土の約18%)の支配権を維持し、支配領域が変わらないまま防衛戦になっていくだろう。
▼ロシアは現在、戦場での主導権を握っており、物的にも優位に立っている。ウクライナが人員の問題を解決し、兵器生産を増やし、現実的な軍事戦略を早急に立てなければ、早ければ来年にも戦争に「敗北」する可能性がある。
▼ウクライナが分割されれば、国際舞台における米国の信頼も損なわれる。バイデンは選挙の年にウクライナ問題での政治的敗者となり、その分だけトランプが有利になる……。
ゼレンスキーが昨年6月に開始した「反転攻勢」は失敗に終わり、クリミアはもちろん東部のロシア系住民が多数を占める地方の領土的奪回はすでに困難になった。そうなってしまうのは、(ブレマーはそれについて何も言っていないが、私に言わせれば)単に戦場での現在の力関係の問題ではなく、ウクライナ戦争の政治的本質ゆえである。
本誌が繰り返し指摘してきたように、2014年以来のキーフ政府と東部諸州の内戦は、フランスとドイツも後見人として加わった国際的な協約としての「ミンスク合意」に従って、ウクライナが東部のロシア系住民に一定の自治権を付与する制度改革を実行することを怠ったことから始まったもので、だからと言ってロシアがそれに武力介入したのは戦術的に誤りだとは思うけれども、結局のところ問題は、どうしたら東部のロシア系住民の自治権=生存権を保証できるかに帰着せざるを得ない。
これは、仮にゼレンスキーの反転構成が成功して彼が東部の領土を奪還したとしても同じことで、彼はやはり憲法を改正し法律を整備して東部に一定の自治権を付与して融和を図る以外にない。だったら最初からそうしていれば、内戦が激化し、ついに我慢し切れなくなったプーチンの介入を招くこともなかったのである。政治的に妥当性のない軍事作戦ほど成功の見込みが少ないものはない。
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