ウクライナ、中東に米国内戦?2024年の世界を左右する「3つ戦争」

 

「アメリカ対アメリカ」の域に達しつつある米国内の対立

ブレマーの「2024年10大リスク」のNo.1は「米国の敵は米国」──すなわち米国内の対立が極端なところにまで進み、政治制度が前例のないほどの機能不全に陥る中での大統領選が世界80億人の運命を左右することこそ、今年の最大の問題であるというにある。これは、本誌が前号でこの大統領選を「史上最悪の『悪魔の選択』」と呼び、その根本原因を「ポスト覇権という世界的なトレンドに適応することが出来ず、従ってそのトレンドの中で自分がどのような地位と役割を占めればいいのか分からなくなってしまった『アイデンティティ喪失状態』に陥っていること」と説明したのと、結論において一致する。

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そこへ話を持っていくブレマーのレトリックが面白くて、「3つの戦争が世界情勢を左右する。ロシア対ウクライナは3年目、イスラエル対ハマスは3カ月目に入った。そして米国対米国の争いは、今にも勃発しそうだ」(「はじめに」)と言う。つまり、米国内の対立はすでに米国が米国を敵とする「戦争」の域に達しつつあるという訳である。

▼米国の政治システムの機能不全は先進工業民主主義国の中で最もひどく……そして今年はそれがさらに悪化するだろう。大統領選は、米国の政治的分裂を悪化させ、過去150年間経験したことのないほど米国の民主主義が脅かされ、国際社会における信頼性を損なうだろう。

▼2大政党の大統領候補は、いずれも大統領に不適格だ。トランプ元大統領は、自由で公正な選挙の結果を覆そうとしたことなど何十件もの重罪で訴追を受けている。バイデン大統領は2期目終了時に86歳になる。米国人の大多数は、どちらも国のリーダーにはしたくないと考えている。

▼トランプが勝てば、広範な暴力が現実のリスクとなり、米国の民主主義の終焉を招くことになろう。また、投資先としての米国の長期的な安定性、金融面での約束の信頼性、海外パートナーとの約束の信頼性、グローバルな安全保障秩序の要としての役割の持続性についても、根源的な疑問が生じ始めるだろう……。

ここで「150年間経験したことのない」と言うのは、リンカーン暗殺で終わった南北戦争以来、という意味なのだろうか。だとすると、民主主義の本家を自慢してきた米国は、もう一度内戦を戦わなければならないほどの民主主義の壊れ方に直面しているということになる。それにしても不思議なのは、誰が見てもそんな馬鹿馬鹿しい結果にしかならないことが分かりきっている大統領選の構図を取り除いて、別のものに置き換える力がこの国のどこにも残っていないというのはどうしてかという問いに、ブレマーも答えていないことである。

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