解決ムードを一転させかねないロシア軍輸送機の墜落事故
ウクライナの政府代表(大統領府長官など)は明らかに不信感を募らせ、別途、記者会見を行って「ロシアの企てに抵抗するために、欧米諸国はウクライナ支援を拡充させるべき」と述べましたが、それに呼応する国はなく、中には「ウクライナから何をすべきかを指示される謂れはない」と明らかに不快感を示す欧州の国もあり、ウクライナが戦闘を継続させることへの支援ではなく、ロシアとウクライナの停戦後の復興に対する支援に重点が変化してきているのが分かります。
新しい国際枠組みの関心は長引く戦争とその影響で悪化する食糧・エネルギー・物流などへの安全保障環境に終止符を打ち、ロシアを再び国際秩序の輪の中に囲い込むことで、【強い兵力を持つものが自らの我欲に任せて周辺の国々を襲う】という国際法上の不条理を正し、再び国際法の下の協調と統治の世界に戻すことではないかと感じています。
ロシアは、どうもその誘いにあまり悪い気はしていない様子ですが、今、ウクライナがその受け入れを考慮する国内政治状況にないのが、大きな懸念です。仮に「NATOも国際社会も頼りにならず、例え朽ちてもロシアの不条理を正すのだ」とウクライナがロシアへの攻撃を積極的に敢行するような事態になれば、先ほど触れたように、私たちが想像できない世界に陥ることもあり得ます。
そしてロシアとウクライナ間での珍しい合意に基づき、捕虜交換が行われるはずだった24日に、ロシア軍の輸送機IL76がウクライナ人捕虜の輸送中にミサイル攻撃を受けて墜落した事件は、解決ムードを一転させる可能性が大いにあります。
これはロシアからのウクライナ批判に留まらず、すでにウクライナ国内で増大してきているゼレンスキー大統領とその取り巻きに対する非難が、ゼレンスキー政権の存続を危険に曝す恐れが高まることにも繋がりかねず、そうなると、ウクライナ国内での政変が起きて親ロシアの政権が生まれるか、ウクライナの3分割に繋がるような内紛が一気に起きうる事態に陥りかねません。
国際社会の関心はPost-Ukrainian Warの世界に向いていますが、今回の事件を受けて、もしかしたらまた戦争の出口が閉ざされる可能性が懸念されます。ロシア・ウクライナ戦争の出口を国際社会が模索する中、その実現を阻む恐れがあるのが、イスラエルとハマスの戦いの継続と激化です。
イスラエル戦時内閣の中からも“人質の全員解放を最優先に考える”ため、ハマスとの少し長めの戦闘休止を実施すべきという声が上がり、何とか国内外で高まる政府批判とイスラエルに対するジェノサイド批判を弱めようとしていますが、当のネタニエフ首相はそれを拒み、またハマスも、エジプトやカタールの仲介の労に対して感謝しつつも、イスラエルによる徹底的なガザ破壊を目の当たりにして、こちらも自身の保身のために、攻撃を緩めるつもりはないようです。
カタール政府経由で聞いた話では、少し前まではハマスの軍事リーダー側も話し合う用意があると発言していたようですが、今週の呼びかけに対しては「時期はもうとっくに過ぎており、イスラエルからの残虐な攻撃の結果、ガザの破壊と市民の虐殺が止まないことを受け、ハマスは徹底的に戦うことにする」と回答し、戦闘の休止も人質の解放も拒み、代わりにイスラエルに対する攻撃を再拡大させました(24日にはイスラエル軍側に約30名の死者がでました)。
軍事的にはまたこれで交戦が激化することになりますが、イスラエル軍は絶対的な軍事的優位を誇りつつも、国内で湧き起る反ネタニエフ首相の声と人質の解放のために戦闘を休止せよという声に直面し、軍事的なリアクションのレベルを控えているように見えます。
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