PTSDに悩む兵士数も激増。イスラエルが直面する四面楚歌の状況

 

四面楚歌の状況に直面しているイスラエル

その背後には、すでに国内で始まりだしたポスト・ネタニエフ体制を切望する声と「これ以上はもう支持できない」と言い出したアメリカ政府の存在があると思われ、軍内で広がるPTSDに悩む兵士数がうなぎ上りに増えていることと、イスラエルが直面する四面楚歌の状況があります。

「ネタニエフ首相が権力の座に居座っている限り、戦争が終わることはなく、イスラエルは国際社会における居場所と信頼を著しく失うことになる」

そのような声が国内からも、周辺国からも、アメリカ政府や欧州各国からも聞かれるようになり、必死に戦争を終わらせようと調停努力を行うエジプトとカタールも、じわりじわりと即時停戦に対するプッシュを弱め、アングルを変えて「戦いが終わった暁にはどのような世界が待っているか」という具体像を示すことで、停戦を促すアプローチに変わってきているように見えます。

そこには【ガザの戦後統治のあり方】【イスラエルとパレスチナの2国家共存に向けたマルチ交渉体制の構築】【イスラエルとパレスチナのコントロールを一旦外して、UNが暫定政府をガザに築く案やイスラエルとパレスチナ人からなる共同統治機構作り】などが織り込まれて、すでに多くの多彩な国際専門家が招集されていますが、問題は何かしらマルチの場で出来上がり、合意に至った統治案を、当のイスラエルとパレスチナが受け入れるかどうかは未知数です。

そして何よりも【誰がパレスチナ、ガザを代表して交渉の場に立つか】という点については、様々な議論がおこなわれ、なかなか合意を見ることが出来ていません。

個人的な見解になってしまいますが、最近になってまた発言が多くなってきたパレスチナ自治政府はまったく頼りにならないばかりか、誰からも顧みられていませんので、戦後統治の輪の中に、そのままの形で入って音頭を取ることは適切ではないと考えています。

それはパレスチナ自治政府の内部での汚職の蔓延もありますが、実質的にこれまでイスラエルと対等に渡り合い、パレスチナ国家の樹立に向けた具体的な成果を全く上げてくることが出来なかったことで、イスラエルに対して悠然と戦うハマスに力を持たせてしまったことと、パレスチナ人の誰も自治政府を正当な政府とはもう見なしていないということがあります。

イスラエルはガザの統治についてハマスの介入を一切受け入れない旨を明確に表明していますので、post-Gazaの世界においてもなかなか具体的な出口が見えてきません。

以前にもお話ししましたが、ガザそしてパレスチナの統治に対しては、本来はパレスチナ人が担うべきですが、それに値する能力を持つ組織はないため、エジプトやカタール、ヨルダンやサウジアラビア王国といった周辺のアラブ国の積極的な関与が必要となりますが、長年にわたるイスラエルによるパレスチナへのユダヤ人入植によってパレスチナはモザイクのような様相になっており、人種や宗教をベースとした明確な国境線の設置もあまり現実的ではない状況を前に、特になすすべもないという状況が現実にあります。

今回の10月7日の事案を受け、国連とイスラエルとの対立も激化し、すでにネタニエフ政権下では修復不可能となっているため、ガザ地区の国連による代理統治機構も無理だと思われますし(東チモールのような形式を想定)、かといってアラブ諸国も直接的な関与はできるだけ避けたいというのが本音のようですので、post-Gazaの世界づくりについてもなかなか妙案が出ず、このままいくと、かつてのいろいろな合意の実行について協議したケースと同じく、結局イスラエルの影響力に押し切られ、対立構造が鮮明なまま、イスラエルの拡大が止まらないという事態が予想されます。

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