NATOを巡る「暴言」とトランプの皮算用
一方で、トランプの方も「行き過ぎ」という感じが濃くなってきました。
ここ数日の発言では、「就任したらバイデンが実施した銃規制は全廃」などというのは、残念ではありますが想定内とも言えます。問題は、他でもありません。NATOを巡る暴言が飛び出したことです。
つまりNATO加盟国が応分の負担をしない場合は、守らないどころか「プーチンに勝手をさせる」という発言です。
実は、アメリカではそれほど大きく取り上げられてはいません。何よりも、この週末にはスーパーボウルがあり、それも延長戦で東部時間では夜11時すぎまで盛り上がったということから、この12日の月曜日も、アメリカ社会はボンヤリしている感じだからです。ちなみに、試合の方は、新ルール下の延長戦が大成功で、大いに盛り上がっていますが……。
これに加えて、発言内容の衝撃度をニュースメディアが受け止められていないということもあるでしょう。
下手に批判すると、右派世論のホンネがこの暴言を支持していることを証明してしまうとか、勢力の対抗図として論破できないアメリカという状況を露呈してしまう、そんな不安から「発言に対して、まともに対決できていない」という感じもあります。
ですが、この「NATO」発言はもしかしたらターゲットになるかもしれないポーランドをはじめ、欧州では大炎上となっています。
日本でもかなり大きく取り上げられていますし、アメリカの政界、言論界でも静かにインパクトは広がっているものと思われます。
しかし、どうしてこの時点でトランプの暴言が飛び出したのかというと、やはり相当な計算があると考えられます。
「前週あたりから、共和党の主流派も自分を支持し始めている。このトレンドの度が過ぎると、連中に引っ張られて過激路線が続かなくなる危険、そしてエスタブリッシュメントと仲良くするなというコア支持者の本音が噴出する危険がある。ならば、主流派がついてこられないような過激発言を小出しにするしかない」
「バイデンは、イスラエルと反戦左派の間で板挟みになってザマミロだ。ガザのことは賛否も曖昧にしてスルーするが勝ち」
「ウクライナ支援予算の可決にバイデンと上院の与野党は躍起だな。だったら、NATO斬りでちゃぶ台返しだ」
「どうせヘイリーがカッカするだろうが、そうなればヘイリーは国連やNATOベッタリで反米だというのが浮き彫りになってザマミロだ」
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