大切なことはすべて生成AIが教えてくれる。紙のビジネス書や実用書が売れなくなってしまった訳

 

■生成AIが止めた「紙のビジネス書・実用書」の息の根

2023年からは、さらに強力なライバルが加わりました。生成AIです。

何かしら技術上困ったことがあれば、生成AIに「訊けば」解決することが増えました。彼らはひねった答えは返せませんが、その分「至極ごもっとも」な回答を出してくれます。人間が抱える悩みは共通していることが多く、その回答もたくさんの「サンプル」が見つけられるので、生成AIにとっては楽なタスクなのかもしれません。

以下は、GoogleのBardに「今年の4月から新入社員として日本の企業に勤めることになりました。最初のうち、どんなことに気をつけたらいいのかを教えてください」という質問をしてみた例です。

今年の4月から新入社員として日本の企業に勤めることになりました。最初のうち、どんなことに気をつけたらいいのかを教えてください

正直に言うと、その辺のビジネス書に書かれているのはこういう話です。そうした内容がものすごく端的にまとまっています。最近のビジネス書は、「手軽に読める」や「本が苦手な人でも読める」というコンセプトを掲げていることが多いわけですが、このスレッド以上に「手軽に読める」ものはないでしょう。

さらに、詳細が気になった部分があれば、追加で質問できます。情報が一方的に与えられて終わる書籍とは、その点が圧倒的に違っています。

書籍の場合、読者が所有する知識地図がわからないので、必要な知識を一通り揃えることが求められます。一定のページ数が必要なのはそのためです。生成AIの場合、「わからなければ、追加で聞いてくれ」が使えるので、最初に大まかなアウトラインを示すだけで済みます。そこから読者のニーズに合わせて詳細な情報を展開していけばいいのです。

はっきり言って、実用的な情報をできるだけ簡易に求めたい場合、生成AIはこれ以上ない媒体と言えます。もちろん、情報的に完璧なものを提供してくれる保証はありませんが、ざっとした概観を得るならばほとんど不足はないでしょう。

現状はそこまで普及率の高くない生成AIですが、「ノウハウ的に困ったことがあったら、本を読むでもなく、Webをググるのでもなく、生成AIに尋ねる」という“作法”のようなものは徐々に確立されていくと想像します。当然、その分ビジネス・ノウハウ書の売り上げは割を食うことになるでしょう。

■「瀕死の状況」で書き手や出版社に求められるもの

ここまでで大きく二つの流れを確認しました。

一つは、巨大なヒット作の土壌になるような「共通の話題を集める素材」が不足している(あるいはそもそも求められていない)という状況です。

もう一つは、書籍以外のメディアの台頭により、そもそも情報を求められる媒体としての期待が下がりつつある、という状況です。

「動作」などに関しては動画メディアが優れており、手軽な情報入手では圧倒的に生成AIが勝っているという点を考えると、書籍が担える領域は以前よりも小さくなっていることは間違いありません。その上、カリスマの不在でその領域を大きく支配できるコンテンツを期待するのも難しい状況なのです。

そういう厳しい戦況の中で、何を展開していけばいいのか。それが書き手(あるいは本を出す側)に求められる思考でしょう。

長くなってきたので、その検討は次回としましょう。

(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2024年2月5日号の一部抜粋です。本記事のつづき(2月12日号)をお読みになりたい方は、この機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、2月分のバックナンバーをお求め下さい)

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1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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