中国側の戦争意思決定プロセスを理解していない
そのようなシミュレーションでは、まず日本政府は2016年の「安全保障関連法」に基づき、
- 重要影響事態(放置すれば日本の平和・安全に重要な影響を与える事態なので、米軍への広範な後方支援を行う)、
- 存立危機事態(米軍が先頭に入り日本の存立が脅かされる事態なので、日米安保条約に基づく集団的自衛権を行使して「必要最小限度の武力行使」を行う)、
- 武力攻撃〔予測〕事態(日本に対する武力攻撃が発生した〔またはそれが予測される〕事態なので、個別的自衛権に基づき武力行使する)
――の3つの事態のどのレベルなのかを認定することになっている。ところが本松の悩みは……、
▼迅速な「事態認定」を行う必要があるが、困ったことに事態認定を急ぐことで生じる問題も多々ある。
▼たとえば、「重要影響事態」と認定した段階で、中国は日本を「交戦国」とみなす可能性がある。すると、その時点で中国本土には数多くの在留邦人が、また南西諸島に住民が残留しているとすれば、中国の攻撃対象にされる恐れが出てくる……。
第1に、3つの「事態」のどれに当たるかの認定は、日本の超国内的な官僚的手続きにすぎず、中国はそんなものに興味を持っていない。
日本が「重要影響事態」と認定したのを見て中国が初めて日本を「交戦国」とみなすかもしれないなどと心配するのは全くの机上の空論で、そもそも日米安保条約で米国に軍事的に従属して在日米軍基地の自由使用を認め、さらに自衛隊がその米軍と一体になって中国軍に当たることを想定した南西諸島の軍事基地化を進めている現段階を中国側から見れば、すでに「交戦国〔候補〕」と認定するに十分なはずである。
第2に、現実の台湾軍事危機の様態を考えれば、自衛官出身の軍事評論家=文谷数重が言うように〔本誌No.1223およびNo.1164参照〕中国は恐らく電撃的な短期決戦戦術を採って台北を制圧することに集中し、尖閣や南西諸島などへの戦力分散を避けようとするだろうが、それでも制海・制空権確保の邪魔になると判断すれば在日米軍と自衛隊を攻撃するかもしれない。









