「米韓同盟崩壊」により現実のものとなる日本の危機
2つ目は、自主防衛論です。トランプが、真剣にNATO脱退を考えているのであれば、これは日本にとって非常に危険な状況となります。それは、トランプのアメリカがNATOから脱退したら西側同盟の崩壊が進むし、トランプのアメリカは更に日米安保も壊して在日米軍を撤退しようとするからだけではありません。
一つ考えられるのは、仮にトランプのアメリカが「NATO脱退」を進めようとしても、そう簡単ではないということです。世界は大きく揺れるし、当然に株式市場は動揺するし、さすがに欧州をプーチンに渡すのかという話になります。プーチンに対しては、まずバルト三国を蹂躙していいというメッセージになるでしょう。
いくらトランプがプーチンに調略されていたとしても、さすがに世論が許さないということはあります。その場合に、NATO脱退というのは時間がかかると考えられます。そうなると、トランプは支持者を満足させるために、別の「それほど抵抗のないドラスティックな撤退」をやりたくなる可能性があります。
その場合には、まず韓国が狙われると思います。日米安保を壊すより、米韓安保の方が「比較的簡単」だと考える可能性があるからです。日本では「米韓同盟崩壊で済めば御の字」的な意見がありますが、トンデモありません。日本の危機はこれによって現実のものとなります。
韓国が米国に見放された場合に、まず北朝鮮が対等合併を言う可能性があります。興味深いのは、つい最近、北は憲法を改正して南北統一を放棄しているのです。ですが、トランプに見放された韓国が、左派政権であった場合は、北朝鮮へ関係改善を申し入れて、その際には対馬海峡の防衛強化を命じられるでしょう。
つまり韓国は自動的に権威主義陣営に行ってしまい、日韓の国境がホットになるということです。その場合ですが、トランプは仮に「日米安保を放棄しない」にしても、韓国の北朝鮮陣営入りを前提とした日本の安全保障対策を「全て日本のカネとリスクでやれ」と言ってくるかもしれません。
たぶん、これは相当に危険なシナリオだと思います。その恐ろしさを考える前に、もう一つの可能性、つまりトランプがNATOと日米安保を並行して壊しにかかる場合をシミュレーションしてみたいと思います。仮にこれを「シナリオA」としておきます。
「シナリオA」の最大のポイント
この場合の日本の選択としては、勿論、孤立して単独武装するなどというのは、危険すぎます。従ってシナリオAの最大のポイントは、日本がNATOに入るということになります。NATOは相互防衛義務があり、欧州の局地戦に日本が巻き込まれる可能性はあります。ですが、これを避けて、しかも日本の安全を保障する枠組みはありません。
残りは国連ですが、国連の中の西側有志連合を作って、相互防衛義務のない集団安全保障条約のようなものにしても、何の役にも立たないでしょう。そもそも、国連には権威主義の陣営も入っていて拒否権も持っているのですから、国連の枠組みで日本を守るというのは成立は難しいです。ですから、既存のNATOに日本が入るということは、やはり真剣に検討すべきチョイスになります。
その場合には、集団安保を組んで、しかも相互防衛義務を負うとなれば憲法改正は必須になります。正規軍を編成し、恐らくは2000年代のドイツと同じように、敗戦国の汚名を良いことに防衛出動をサボっていた時期を「取り戻す」ために、対海賊作戦にしても、あるいは反テロにしても、いきなり危険な作戦に参加する可能性はあります。その場合は、まさにドイツと同様に損な役回りをこなして信用を勝ち取るしかありません。
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