「歴史修正抜き」「核抜き」は絶対。“もしトラ論議”で自称保守派こそが目を覚ますべき理由

 

とにかく韓国を引き入れて対馬海峡を対立の海にしない

このNATOの枠組みには、とりあえずメリットが2つあります。1つは中国との経済関係は西欧もかなりあるので、中国の利害と鋭角に対立することはないということです。もう1つはロシアを刺激しますが、欧州と日本では2正面作戦になるので、抑止力が作用するということです。

この「シナリオA」の留意点としては、日本が速断して先行し、その上で韓国を引き入れるということです。韓国が保守政権のタイミングで、西側同盟に残留する決定的な要件として、とにかく韓国を引き入れて対馬海峡を対立の海にしないというのは大切です。

可能性としては微妙ですが、韓国が先にトランプに切られた場合に、日本より先に韓国がNATOに入った場合には、日本が遅れて加わるのはアリだと思います。ですが、韓国はトランプに切られた時点で、カオスになって北と連携する可能性があるので、日本より先にNATO入りという可能性は低いと思います。ただし、仮にそうなった場合、日本が韓国に続いてNATOに入る、例えばですが、日米同盟を切られる前にNATOに入り、NATOに相互防衛義務を約束して、日米安保も同様に改定して同盟を維持するというのは成立すると思います。

相当に屈辱的な状況になる「シナリオB」

問題は「シナリオB」です。トランプが韓国を先に切って米韓同盟が消滅、保守政権が倒されて左派が北朝鮮との同盟を選択するという場合です。その場合には、全てが難しくなります。まず、権威主義諸国は朝鮮半島全体が勢力圏に入るので、一気に東アジアの地政学面で有利なポジションに立ちます。

そのような状態で、日本が仮にNATO入りを要請しても、事態がそこまで厳しいのであれば、西欧は東アジアの紛争に自動的に巻き込まれる可能性から、日本の加盟を拒否するかもしれません。そうなって、その上でトランプが日米同盟も切ってしまうと、日本は完全に孤立することになります。

その場合は、中国に大きく妥協をして、中国の懐に入って北海道の保全をするというような屈辱的なシナリオしか残りません。尖閣だけでなく、先島も差し出し、中国艦船の南西諸島寄港を許しというようなことで済めば御の字という感じで、それでも主要四島の独立が保持できればという感じになるかもしれません。

一つのアイディアとしては、トランプが先に米韓同盟だけを切った場合に、日本外交としては、欧州などと結託して韓国を中国に接近させ、更には中露の関係を切り離すのです。そのようにして、中国には朝鮮半島の勢力圏入りを認めて、その代わり北海道の保全に協力してもらうように要請する、そんなシナリオです。これでもかなり屈辱的ですが、何らかの安定を確保することにはなると思います。

いずれにしても、AとBを比較すると大きな差があります。Aの場合は、確かに憲法改正は必要だし、NATOとの連携で、例えばバルト三国の防衛とか、北海や地中海での作戦などに日本は駆り出されます。また中東で欧州が関与するトラブルが発生した場合にも巻き込まれます。ですが、領土は保全され、自由と民主主義、言論の自由は確保できます。

ですが、Bシナリオの場合は、相当に屈辱的な状況になると思います。そして、一旦失った自由、失った領土というのは、取り返すのは非常に難しくなります。そう考えると、「もしトラ」論の中で結構耳にする、トランプが切り捨てるとしても、「日本よりまず韓国でしょ」という説は、実は危険極まりないことがわかります。

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