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なぜ「自民のラスボス」森喜朗にダメージが通らない?安倍派幹部“重い処分”で裏金幕引き、岸田自民の猿芝居に国民呆れ

自民党が4日、政治資金パーティー裏金事件の党内処分を正式に決定。安倍派幹部4人のうち世耕弘成氏と塩谷立氏は「離党勧告」、下村博文氏と西村康稔氏は「党員資格停止1年」となりました。一部報道では、この“重い処分”に納得いかない幹部が、党を相手取り「訴訟も辞さない」と息巻いていたとも。ただ、これらはすべて、裏金問題の最終ボスたる森喜朗氏を“お咎めなし”にするための三文芝居にすぎないようです。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが詳しく解説します。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:裏金の真相を「聴取・処分・訪米」でごまかし幕引きをはかる岸田首相

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裏金問題の最終ボス、森喜朗を「守り抜く」自民党

裏金キックバックという安倍派ぐるみのインチキな蓄財法をあみだしたのも森喜朗氏なら、いったん取りやめ方針が決まったのに復活させたのも森喜朗氏。安倍派の幹部連中は知っていながら、こぞって口をつぐんでいる。政治に多少の関心がある人なら誰しもそのように察しはついているだろう。

岸田首相が“真犯人”を差し出してこそ、世間は納得し、支持率も上昇する可能性がある。それがわかっていても、ムラの長老のような存在に手をつけるのは、あとの“祟り”が怖い。森氏が牛耳ってきた安倍派は、解体過程にあるとはいえ、まだ一定のまとまりがある。総反発を食らう事態は避けたいところ。

どうやら、岸田首相は森氏の疑惑には目をつぶり、その分、安倍派幹部への懲罰を強めにして、問題の幕引きをはかるつもりのようだ。

そのための“儀式”が安倍派幹部への「聴取」といわれるものだ。裏金議員への“処分”を実行するにあたり、不正の真相究明への努力をしないままでは、処分の正当性に疑問符がつけられる。

明らかに「クロ」裏金還流を指示できるのは森喜朗だけ

岸田首相は3月26,27日の両日、東京都内のホテルに、安倍派の幹部である塩谷立下村博文西村康稔世耕弘成の各氏を個別に呼んで、話を聞いた。

4人は2022年8月、パーティー券売上の裏金キックバックを、その年の4月に決めた方針通り、取りやめるかどうかを協議したメンバーだ。結果として、キックバックが再開されたことから、この会合で方針撤回が決まったように見える。

だが、政倫審における彼らの証言では、この会合で結論は出なかったことになっている。塩谷氏は「ことしに限って継続するのは仕方がないのではないかという話し合いがなされた」と述べたが、その場で決まったとは言っていない。他の3人はこう語っている。

「事務総長の職を離れた2022年8月直後、還流復活の結論が出た。経緯は全く承知していない」(西村氏)

「8月の会合で現金還付の復活が決まったことはない。(なぜ復活したか)残念ながら分からない」(世耕氏)

「結論が出たわけではなく、この会合で還付の継続を決めたということは全くない」(下村氏)

つまり、派閥の幹部4人とも知らないうちに、いつの間にか還流再開が決まっていたことになる。

だとしたら、4人以外の誰かが決めて事務方に指示していたと考えるほかない。

むろん、そんな勝手なことをして、誰からも文句が出ない人物は森喜朗氏、ただ一人しかいないだろう。

自民内部で意見対立?森喜朗をめぐるリーク情報の奇々怪々

岸田首相が自ら安倍派幹部の聴取に乗り出した目的は、処分をすんなり受け入れさせるための地ならしといった側面もある。

だが、森氏がどこまで関わっていたのかが岸田首相や同席した茂木幹事長、森山総務会長の政治的関心事であったことは間違いない。4人との会談は自ずからその“核心”に迫ることになった。

3月27日の聴取が終わると間もなく、日テレNEWSのスクープが放たれた。

岸田総理大臣から事情聴取を受けた安倍派幹部の一部が「キックバック再開の判断には森元総理大臣が関与していた」と新たな証言をしたことが分かりました。

森氏が派閥会長だった時代から裏金キックバックが行われてきたことは自民党議員たちへの聞き取り調査でほぼ明らかになっている。だが、22年のキックバック再開になぜ関与しなければならないのか。自分の創始した裏政治資金の仕組みを否定されるのが許せないからなのか。実に奇妙だ。

ひょっとしたら、裏金の一部を森氏に上納する仕組みがあり、それが今も続いているのかもしれない。森氏は議員を引退したあとも政治団体を持って多額の資金を集めてきたことがわかっている。

それと、気になるのは、この情報を漏らした「安倍派幹部の一部」とは、4人のうち誰を指すのかということだ。「一部」というからには1人ではなく複数の証言があったに違いない。森氏に疎まれ派閥の後継者レースから排除された下村氏は真っ先に疑われる立場だが、密室のことでもあり、誰が漏らしたとしても不思議ではない。

日テレの報道は、29日早朝の朝日新聞によっても裏打ちされた。

自民党安倍派の裏金事件をめぐり、岸田文雄首相が行った派閥幹部への聴取で、一度は廃止した還流の復活を決めた2022年8月以降について「派閥への森喜朗元首相の影響が強まった時期と重なる」とする証言が出ていたことがわかった。聴取にかかわった関係者が明らかにした。同年7月の安倍晋三元首相の死去後、最大派閥のまとめ役がいない中、派閥の運営全般に影響力を強めた森氏が還流復活の判断に関わった可能性があるとみて、党が調査に乗りだすかどうかが焦点だ。

森氏が「判断に関与」(日テレ)、「判断に関わった可能性」(朝日)と、強弱の違いはあるが、安倍派幹部への聴取で、森氏の関与をめぐる話が出ていたのは間違いないようだ。

ところが同じ29日の夜に共同通信が配信した記事は、前記二社の報道に冷や水を浴びせるような内容だった。

派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、自民党が既に、安倍派会長経験者の森喜朗元首相側から水面下で話を聞き取っていたことが分かった。資金還流が始まった経緯や2022年に復活した状況について尋ね、関与なしと認定したもようだ。追加聴取は現時点で想定していない。

もうすでに自民党が森氏から話を聞き、裏金作りに関与していないと認定したから、あらためて聴取する必要はないというのだ。

どうやら、自民党の内部で森氏に関する意見が対立し、それぞれの派が都合のいい内容をメディアにリークし、報じさせている気配である。

岸田首相に「森喜朗を血祭りにあげる」気概なし

森氏への岸田首相による聴取や、国会での証人喚問を求める野党に対し、岸田首相は「森氏も関係者の一人。(聴取対象に)含まれ得る」と述べ、森氏に会うことを否定してはいないが、今のところ積極的な姿勢はうかがえない。

森氏のことだから、直接、岸田首相に電話して、火の粉が自分の身に降りかからないよう何らかの圧力をかけているかもしれない。

二度の政権交代を実現した小沢一郎氏は、次の衆院選への不出馬を表明した二階俊博元幹事長にからめ、岸田首相の政権運営を党内グループ会合で、次のように評したという。

「清和会(安倍派)をズタズタにやっつけて今度は二階を引退に追い込んだ。二階氏も劣らずにしたたかだけど、今の状況では(岸田氏に)かなわない。だから注意しないといかん。油断するな」(朝日新聞デジタルより)

岸田首相を「したたか」と見るか、「場当たり的」と見るかは意見が分かれるところではある。かりに「したたか」だとすれば、今こそ森氏を血祭りにあげて世間の喝采を浴びるチャンスのはずだ。

しかし残念ながら、岸田首相にその気概はないと見る。

4月10日にはバイデン米大統領の招きにより、国賓待遇で米国を訪問、日米首脳会談や大統領夫妻主催の公式夕食会にのぞむ予定だ。

バイデン大統領に依存して政権浮揚をはかるという、気楽な胸算用は相変わらずなのだ。

安倍派幹部への「重い処分」は茶番もいいところ

森氏を不問にする代わりに打ち出そうとしている処分の内容は、どのようなものなのか。当初、麻生副総裁、茂木幹事長と話し合い、安倍派幹部についても「党員資格停止」ていどで合意していたが、それでは選挙を戦えないという党内の声を受け、岸田首相が「除名」の次に重い「離党勧告」を主張しはじめたという。

安倍派幹部に厳しく対処し、その他の安倍派、二階派の議員とあわせて40人規模の処分を実施して、裏金問題の幕を引くハラのようだ。

しかし、重い処分も所詮は見せかけにすぎない。彼らが離党したところで、その立候補する選挙区に党が刺客を立てなければ、次の選挙で当選し、禊を済ませたとしていつの間にか復党するお決まりのパターンになってしまう。

裏金作りの張本人とおぼしき人物が口を閉ざし、永遠に真相を闇に葬ることを許すようでは、岸田首相ならびに自民党への国民の信頼は地に堕ちる。

米大統領の言いなりになるご褒美ともいえる華やかな晩餐会で目をくらませようとしても、そうはいかない。

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