「トランプ和平案」の問題点
トランプさんの「和平案」が上のようなものと仮定すると、どうなのでしょうか?
大きな問題があります。まず、国際秩序に深刻な影響を与えるということです。
プーチンは、「ルガンスク、ドネツクで迫害されているロシア系住民を救う!」などと言ってウクライナ侵略を開始。ルガンスク、ドネツクだけでなく、ちゃっかりへルソン、ザポリージャも奪ってしまいました。それを、トランプ・アメリカが容認することになる。
このことが国際社会に与えるメッセージは、「大きな国、力の強い国は、小さな国、力の弱い国からなんの根拠もなく領土を奪っても許される」というものです。当然、他の相対的な大国は、他の相対的な小国から、「欲しい!」という理由だけで、領土を奪うようになっていくでしょう。中国は、大いに喜ぶでしょう。ロシア・プーチンとアメリカ・トランプは、「悪しき先例」を作ることになります。
もう一つの問題は、「プーチンはクリミア+2州で満足しないだろう」ということです。つまり停戦に同意しても、それは、「軍を休ませ、経済を復活させ、武器弾薬を生産し、動員を進め」、要するに「次の侵略に備える準備期間」になってしまうことでしょう。なぜ?
「プーチンの狙いはルガンスク、ドネツクだけ」というのを信じているのは、「平和憲法さえあれば日本の安全は安泰だ」などと信じている、「平和ボケ」日本の評論家ぐらいです。上の話が本当なら、なぜプーチンは2022年2月24日に侵略を開始した際、ウクライナの首都キーウへの進軍を命じたのでしょうか?これはあきらかに、「首都を陥落させ、ゼレンスキー政権を転覆させ、ウクライナ全土を支配する」という試みでした。失敗しましたが。
もう一つ、既述ですが、「ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を救うのが目的」と言いつつ、なぜまったく無関係のザポリージャ、へルソンを併合したのでしょうか?
そして、プーチンの狙いが、「ウクライナ全土の制圧」であること、彼の子犬メドベージェフ前大統領が公言しています。『ロイター』3月5日付。
● ウクライナ「ロシアの一部」、メドベージェフ前大統領 和平交渉否定
ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長は4日、ウクライナは「明らかにロシアの一部」との認識を示した。
この日はロシア南部ソチで開かれた若者を対象としたフォーラムに参加し、ロシア帝国とソビエト連邦を賞賛した上で、ウクライナの指導者が屈服するまでロシアは「特別軍事作戦」を遂行すると表明。
「ウクライナはロシアではないと語ったウクライナの元指導者がいたが、こうした概念は永遠に抹消されなければならない。ウクライナは間違いなくロシアの一部だ」とし、歴史的にロシアの一部であるウクライナはロシアに「帰還」しなければならないと語った。
「ウクライナ間違いなくロシアの一部だ」
「歴史的にロシアの一部であるウクライナはロシアに「帰還」しなければならない」
そうです。
つまり、プーチン政権は「全ウクライナ制圧」を狙っているのです。
独裁国家ロシアでは、プーチンの意向に反して好き勝手に語ることはできません。だから、プーチンの子犬メドベージェフも、プーチンの意志に沿った話をしているのです。
というわけで、トランプさんが大統領になって、仮に彼の和平案が実現しても、「平和は長くなかったね」となる可能性が高いのです。
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(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2024年4月9日号より一部抜粋)
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