栃木の日光東照宮、石川の氣多大社、鎌倉の鶴岡八幡宮など、近年「神社本庁」を離脱する有力神社が急増している。背景には、上納金や人事介入への不満に加え、反社の関与が疑われる土地転がしなど“不祥事の巣窟”と化した神社本庁への反発があるようだ。強い戦前回帰志向とマイノリティへの差別意識を持ち、神聖な境内で憲法改正の署名集めをさせることでも知られる神社本庁。いやしくも“庁”を名乗るこの民間宗教法人の堕落した本質を、小林よしのり氏主宰「ゴー宣道場」の寄稿者で作家の泉美木蘭氏があばく。(メルマガ『小林よしのりライジング』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:泉美木蘭のトンデモ見聞録・第323回「神社本庁と神道政治連盟のこと」
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神社界を牛耳る人間たちの醜聞
前回(「古代の『斎王』と伊勢神宮『祭主』のこと」)のつづきで、神社界を牛耳る人間たちの醜態について書いておきたい。
前回紹介した2017年の富岡八幡宮殺人事件は、素行不良で宮司をクビになった弟が、新宮司となった姉を殺害し、自身も自殺するというものだった。事件直後、関係者に届いた弟・茂永からの手紙には、自分の母親の実家について「〇〇家の男系男子〇代目」という書き方が見られたり、自分の長女については、「ホステスをしていてヤクザと繋がりがあったので勘当した」とあっさり触れる一方、長男については思い入れを込めて紹介し、宮司として富岡八幡宮を継がせるのだという猛烈な執念が書かれていたりする。そこかしこに男尊女卑臭が漂っていた。
富岡八幡宮は、江戸時代、相撲が両国を定位置とするようになる前に、勧進相撲(寺院の建立や修繕資金を募るためのチャリティー興行)が行われていた場所だ。今でも新横綱が土俵入りを奉納したり、力士碑が並んでいたりする。
そのような有名神社でもあって、「富岡八幡宮の長男」という出自は、神社界ではよほど効力を発揮したらしい。弟・茂永は、すさまじく問題のある人間でしかなかったが、神道青年全国協議会理事、東京都神道青年会会長、日本会議江東支部初代支部長、神社本庁参与、國學院大学協議員などを歴任していた。
また、自分は「いつか神社庁の庁長に」なりたいと考えていたらしい。
その神社庁の本庁は、姉を宮司として認めず、数年間、富岡八幡宮を宮司不在のままにし続けた。そのため、富岡八幡宮は神社本庁を離脱して姉を宮司にしたのだが、これによって弟・茂永が暴発。手紙には、神社本庁が富岡八幡宮の人事に介入できなくなったこと、自分の長男を宮司にしろという要求、さもなくば氏子の子孫も含め末代まで祟り続けてやるという呪いが書かれていた。
官公庁じゃなかった……宗教法人「神社本庁」
そもそも神社の人事権を握っている「神社本庁」とは一体なんなのか。
私の地元には「三重県神社庁」があるが、「庁」と名乗っているし、建物の外観がいかにも市役所か税務署かという雰囲気を醸しているので、大人になっても「神社関係の公的な役所なんだろう」と思い込んでいた。
だが実際は、官公庁でもなんでもない。各都道府県に支部を持ち、全国8万社が加盟している民間の宗教法人だ。伊勢神宮を「本宗」として仰ぎ、全国の神社庁をとりまとめて、神主の資格認定や宮司人事を司る総本山が、東京都渋谷区の明治神宮に隣接する「神社本庁」である。
神社本庁は、伊勢神宮から「神宮大麻」(お札)の販売事業を委託されており、全国の神社庁を通して各加盟神社に神宮大麻を配布している。加盟神社は、売上金(初穂料)をすべて伊勢神宮におさめ、神社本庁を通して3~5割の取り分を配分されるらしい。
神宮大麻は、古くは室町時代から、全国津々浦々で活動していた「御師(おんし)」と呼ばれる民間の宗教家が領布していた。御師は、江戸時代の最盛期には2000人以上いて、「お伊勢参り」のツアーガイドのような役割をしていた。泊まる宿や豪華な宴会、神楽など芸能の手配までして盛り上げまくり、伊勢の内宮・外宮の参拝を案内した上で神宮大麻を配っていたので、参加者はみんな感激して大喜びだったらしい。
伊勢の旧街道沿いには、大きな遊郭もあり、男衆はそちらへも案内された。当時最先端の設備とサービスが提供されており、舞妓たちが派手な着物で「伊勢音頭」を踊りまくっていて、「一度はお伊勢さんへ行ってみたい」という憧れの的にもなっていたという。
ところが明治になると、神道は「国家の宗祀」と位置付けられ、御師は活動停止に。代わりに「神宮教院」(のちの神宮奉賛会)と呼ばれる機関が一括して、神宮大麻を管理するようになった。
だが敗戦後、GHQによって、神社は国の管理から外される。この時に、神社の弱体化を防ぐために発足し、神宮大麻の管理事業を引き継ぐことになったのが、神社本庁なのだ。
不満をあらわにして離脱する神社も…
ただし、神社なら必ず神社本庁に加盟しなければならないというわけではない。
そもそも、日本は八百万の神の国であり、アマテラスオオミカミをご祭神とする神社ばかりではないからだ。靖国神社(東京)、伏見稲荷大社(京都)などは、発足当時から加盟していないし、全国には小さな祠も含めて20万社が加盟せず単立している。
単立する神社は、それぞれの神社の名前を記載した自前のお札は領布しているが、「天照皇大神宮」と書かれた神宮大麻は領布していない。
近年は、富岡八幡宮のように人事介入に不満を持って離脱する例や、上納金や上層部の態度(主に「偉そう」という文句が多い)に辟易して離脱する例が相次いでいる。
有名どころでは、日光東照宮(栃木)、気多大社(石川)、金刀毘羅宮(香川)などが、大っぴらに神社本庁を批判して離脱。明治天皇をご祭神とする明治神宮も、不快感を示して2004年に離脱し、2010年に和解して再加盟したものの、現在も、お札売り場にあるのは「明治神宮」と書かれたもののみで、神宮大麻は領布していない。神社本庁とは隣接しているのに、よほど腹に据えかねたものがあり、牽制しているのだろう。
さらにホットな話では、先月13日、鎌倉の鶴岡八幡宮が離脱を決めたことが明らかになった。これは神社界では激震だったようで、NHKでも報じられた。
人気神社の離脱は、伊勢神宮で20年ごとに行われている「式年遷宮」の継続にも関わるという。社殿や鳥居などすべてを新調してご神体を移す式年遷宮は、前回2013年で550億円かかっており、内330億円は伊勢神宮が積立金から拠出したが、残り220億円は日本商工会議所と神社本庁が集めたからだ。
次回遷宮は2033年。準備は今年からはじまるが、それを支える神社本庁の求心力に疑問符がついているという。
神社本庁「土地ころがし」問題
神社が離脱していくのは、神社本庁が不祥事の巣窟になっていることに原因がある。
神社本庁の財産は、全国の神社から集まった浄財で成り立っているため、不動産を処分する場合は、競争入札することが原則となっていた。ところが2015年、神社本庁トップの田中恆清総長が、神奈川県川崎市の職員宿舎を、神社本庁の政治団体「神道政治連盟」の打田文博会長と親しい業者に1億8000万円で売却。この業者は、即日別の企業に2億1000万円で転売し、さらに半年後に不動産大手に3億円で再転売された。業者は、山口組の関連会社という情報もある。
過去にも、同様の手口で複数の本庁の不動産が転売されており、田中総長と打田会長の「土地ころがし」は神職のなかでも問題視され、神社本庁の神職2人が告発。ところが、この2人は懲戒処分となった。のちに裁判で処分が取り消されているが、あからさまに「俺様に文句言うやつはクビ切るぞ!」という態度を見せる田中総長に唖然とする。
また、大分県の宇佐神宮では、宮司家の娘である女性が、宮司への就任を拒否され、かわりに神社本庁の人間が派遣されて宮司の椅子に座るという「神社乗っ取り」が行われたが、これも田中総長体制下のことだ。派遣された宮司は、土地ころがしに関わっており、その後、神職の最高位である「特級」に昇進して波紋を呼んでいる。
富岡八幡宮の事件で、姉を宮司として認めなかったのも田中総長だ。
神社本庁の総長は「2期6年」の慣例があるが、田中総長は役員会を丸め込んで「5期15年」の在任中。神道政治連盟の打田会長も3選されている。
田中と打田がこれほど強固な権力を持ったのは、安倍晋三とのパイプがあったからだという。2016年の正月には、安倍支持のアピールとして、全国の神社境内で初詣客向けに憲法改正の署名集めが行われ、人々をギョッとさせたこともあった。
皇位継承問題が浮上すると、「男系男子」を強く主張して見解を発表したり、神道政治連盟を通して「男系男子護持」のためのチラシやリーフレットを配布したりしている。伊勢神宮を仰ぎ、アマテラスオオミカミの名の入った神宮大麻を領布しながら、同じ手でろくでもないものを配布しているのだ。
出発は「公共性の回復」のための活動だった
神社本庁のそもそもの意義について触れておこう。
神社本庁の発足に尽力したのは、葦津珍彦(あしづうずひこ)という神道思想家だ。明治42年、福岡県に生まれ、玄洋社の頭山満に付いて上京する父親に同行して影響を受け、戦後は神社界の再建と天皇制擁護の立場で活動した。
戦後の神道界には、「一つの宗教のように、教義をつくるべきだ」と考える神職が少なくなかった。そのなかで葦津は、神社にはそれぞれの由来があるのだから、その独立性を尊重せずに教義を統一するのは神社の本質に反することで、神道は、仏教やキリスト教の一宗派と同様の存在と化すべきでないとし、神社それぞれの多様性を尊重し、ゆるやかに祭祀を守る結集体として、1946年に神社本庁をスタートさせた。
やがて、左翼学生運動が過激化・無法化するようになり、葦津は、神社は国民精神の昂揚をはかる立場であり、神社本庁も、時代状況を鑑みて、組織的な活動を強化しなければならないと考えるようになった。
ちまたでは、「神道として統一の教義はなくとも、標準的な解釈が必要ではないか」「本庁の指導不足」という非難の声も高まっていたという。
神道は、個人の御利益を願うだけでなく、国家や人々の安寧のために祈るという機能を持っていて、鳥居の中は、マナーさえ守ってくれるのならどんな誰のことでも受け入れるという精神がある。
その神道の立場から、公共性を回復させたいと考えた葦津は、神道と国家の結びつきを一定程度回復させようと、思想活動に意欲を燃やした。
その活動が、神社本庁のロビー団体である「神道政治連盟(神政連)」の発足(1969年)、その趣旨に賛同する議員連盟「神道政治連盟国会議員懇談会」の発足(1970年)へと続く。
葦津は1992年に他界しているが、1990年代に入ってからは、自民党勢力が分裂し、創価学会を母体とする公明党が政権入りしたことが引き金となり、さらに強固な政治基盤が必要だと考えた神道政治連盟の一部メンバーが結集して「日本会議」が発足している(1997年)。
「公共性の回復」「多様性」と真逆に突っ走る現在
葦津珍彦は、左翼運動が過激化する時代の「公共性の回復」という目的のために、神道と国家を結び付けたほうがよいと考えた。そこに共鳴して集まった人々には、「あの素晴らしい明治時代をもう一度」と考える戦前回帰志向も強かったのだろうと想像がつく。
葦津本人は、左翼思想の人々とも気持ちよく議論ができる人物として評価されていたようだが、その後に集った人々は、時代が下るごとに、変化できずどんどん劣化してしまい、ただの「時代錯誤の老人」が大量発生してしまったのかもしれない。男尊女卑で土地ころがしに熱心な田中総長や打田会長も、典型的な戦前回帰志向らしい。
また、葦津の考えていた神道の意義とは真逆に、戦後の神社本庁発足時にも存在したような、「神道として統一された教義が欲しい」「中央集権的な神道組織が欲しい」という感覚を抱えて、日本本来の多様性を理解できないままの人間も多いのではないだろうか。
それがこじれて原理主義に陥ったり、他の一神教のような組織体制に憧れたり、次々と差別的な発言を吐いたりしながら政治に関わろうとし、「2000年以上の長きにわたり男系で皇位継承されてきた万世一系の伝統」「神武天皇から続くY染色体」などの呪文を唱えながらカルトへの道をひた走るようになったのではないかと想像した。
また、長期政権と結びついてガチガチの組織になればなるほど、「この世間から仲間外れにされたら怖い」という感覚で、自分の考えを捨てた政治家も増えただろう。
神道政治連盟は、2020年にLGBTの保護を主張していた稲田朋美を神道政治連盟国会議員懇談会の事務局長から解任し、さらに落選運動を企てたという。女性であることも拍車をかけたのだろう。さらに、2022年には、自民党の国会議員が参加した会合で「同性愛は精神障害または依存症」などと書いた冊子を配布していた。
「男系男子固執・男尊女卑・LGBT差別」という“教義”に反する政治家は、足を引っ張ってやる──そんな妄念に囚われて、「公共性の回復」とはまったく違う方向へ突っ走り、日本を自滅に向かわせているのが、現在の各団体なのである。
神社本庁と神道政治連盟の思想の源流となった葦津珍彦は、かつて、「日本皇室の万世一系とは、男系子孫一系の意味」としながら、憲法の「世襲」の規定には女系も含まれるとし、男系限定を維持するなら側室制度を復活するしかないという見解を述べていた。
さらに、旧宮家の復籍に関しては、「君臣の分義を厳かに守るために」「決して望むべきではないと考える」とも述べていた。
いまの状況を眺めて、葦津はどう思うだろう。その2に続きます――(メルマガ『小林よしのりライジング』2024年4月9日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上お楽しみ下さい。泉美木蘭氏が神社本庁の闇を斬る「その2」は2/16号で配信予定。また、4/9号の小林よしのり氏メインコラム「ゴーマニズム宣言・第529回『芸能の長い長い助走』」や読者Q&Aコーナーなどもすぐに読めます。
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