北朝鮮が韓国に向けてゴミや汚物をぶら下げた風船を飛ばし始めたのは5月末のこと。脱北者団体のビラ散布がきっかけとなった北朝鮮の「汚物風船」による反撃に、韓国側も拡声器を使った「宣伝放送」を再開。ビラ→汚物風船→宣伝放送という悪循環が生じています。この事態を時系列に沿って伝え解説するのは、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』著者の引地達也さん。韓国が宣伝放送でBTSなどの韓流スターの歌を流すのは、北朝鮮の中枢を強く刺激すると懸念を示し、一歩間違えば軍事衝突へと発展しかねない状況にあると危惧しています。
38度線のごみ風船の寓話と拡声器の相互作用の懸念
「ごみでもばらまいとけ!」とでも言ったのだろうか。北朝鮮が風船にくくりつけたごみを韓国側に次々に飛ばす、「いやがらせ」が続いている。南北を分断する軍事境界線を越えていく白い風船の群れは、夢のあるファンタジーの風景で、そこにごみが括りつけられているのは現代の寓話だ。
この奇怪な行為は組織決定して戦略的に行われているようだが、誰かの思い付きのひとことが、大々的な行動となって作戦化したパロディのよう。ゴミが飛んでくる現実に、韓国側も無視はできず、以前の作戦であった境界線付近での拡声器による韓国の宣伝放送を再開した。
町内や学内放送で使われている拡声器を集めた、その発声装置は以前と変わらず、牧歌的な雰囲気で、そこに流れるのはBTS(防弾少年団)。ごみへの対応手段としては、少し刺激的なような気がする。
今回の北朝鮮からの風船は、韓国にいる脱北者らでつくる団体が北朝鮮の体制を非難するビラを散布することから始まったとされる。韓国のハンギョレ新聞によると、5月10日に1回目の脱北者団体による北朝鮮向けビラ散布があり、北朝鮮からの1、2回目の「汚物風船」(韓国メディアはこのような呼び方をしている)が着地したのが5月28~29日と6月1~2日。
これを受け韓国政府は6月4日に2018年の南北軍事合意の効力を全面停止とした。さらに脱北者団体が6月6~7日に北朝鮮向けのビラを散布、これに対抗するように北朝鮮は6月8~9日に「汚物風船」を飛ばし、韓国は9日、停止していた北朝鮮向けの拡声器による宣伝放送を再開した。そしてまた北朝鮮の「汚物風船」は6月8~9日に韓国側に届く、の繰り返しだ。
韓国メディアによると、風船が2回目に飛来した直後には韓国軍と専門家は1年分に相当する1000個の風船をわずか数日で飛ばしたため、風船やタイマーなどの不足で「もう飛んでこない」との予想を示していたが、それは間違いだった。
脱北者団体のビラ散布は民間団体の行為として、韓国政府は黙認していたところの北朝鮮からの風船。それに対して韓国政府が国として対応措置を講じた、という流れである。
朝鮮日報によると、この北朝鮮向けの宣伝放送は、「現在の国際情勢、韓国の発展の現状、気象情報」と「BTS(防弾少年団)など韓流スターの歌」を約2時間かけて伝えたという。
この記事の著者・引地達也さんのメルマガ









