一切の飛び火がないように細心の注意を払う中国
戦争の長期化で利益を得るのは、ロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニエフ首相だけではありません。
中国はロシアやイスラエルに対して“早期の戦争終結と人道支援”を強く求めてはいますが、戦争が同時進行的に起きて続く限り、欧米諸国とその仲間たちによる対中軍事作戦は起こりにくく、その間に国力を回復させ、強化し、軍事的な備えもできるという狙いを持っているようです。
ロシアに対する軍事支援は(最新兵器という意味では)これまで行っていませんし、ロシアと北朝鮮の接近に対しても、実際にはあまりよく思っていないにも関わらず、あえて距離を置き、一切の飛び火がないように細心の注意を払っているようです。
ロシアが北朝鮮に核兵器技術を与え、ICBMの精度が上がることには難色を示していますが、両国に警告しつつ、ロシアと北朝鮮を巻き込み、アジア太平洋地域における中国にとっての安定を確保しつつ、世界的にはイランやシリア、そしてアラブ諸国、アフリカ諸国などを加えて緩やかで広範な勢力圏を築きにかかっているようです。
戦争の継続が生み出す自国や地域が潤うシステム
紛争調停に関わってみてよく分かることは、以前の紛争多発時とは違い、今、同時進行的に起こっている紛争については、表面的には一刻も早い停戦を謳っているものの、当事者もそれぞれの後ろ盾の国々も、戦争が継続する・長引くことで自国・地域が潤うシステムが作れることから本気で戦争を止める気がないのではないかという“現実”です。
その直接的な悪影響と被害を受けるのがガザの子供たちであり、ウクライナ東南部の一般市民であり(ウクライナ西部の人たちは、時折、ロシアのミサイルが飛んでくるものの、実際には避難の必要はない)、行き過ぎていても機能していない経済制裁によってグローバル物流が止まり、インフレに苦しむ大多数の消費者です。
そして大きな戦争の影で忘れられた地域紛争の被害者たちが置かれる状況もかなり深刻ですが、全く顧みられてはいません。
例えばスーダンの内戦では、UNの発表によると、約2,500万人が飢餓に瀕しており、人口の20%に値する約900万人が国や町を追われ、隣国エチオピアに非難していますが、そのエチオピアでも、残り火のように燻り続けるティグレイ紛争の煽りを受けて、迫害を受けているようです。しかし、加担することで得られる見返りが少ないと踏んでいるのか、いわゆる“国際社会”はスーダンの悲劇に対応しようとしません。
私が紛争調停官として仕事を始めたころ、ボスのセルジオ・デメロ氏や、国連難民高等弁務官であった緒方貞子氏から「戦争は人類が生存している限り無くなることはない。私たちには我欲があるし、その実現のためには手段を選ばないという性が備わっている。紛争調停官としてあなたが出来ることは、戦争を無くすことではなく、戦争が起きないように予防するか、戦争が起きた時に、一般市民の犠牲を可能な限り最小限に抑えるようにすることだ」というアドバイスをもらいました。
それからそれを胸にいろいろな紛争の予防や調停に携わってきましたが、銃は持たずとも、紛争の最前線に立つことが多い身として、アドバイスの内容が身に・心に沁みますし、私たちが持つ欲と対峙することの難しさを痛感する毎日です。
以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2024年6月28号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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