投与された糖尿病患者の体重が大幅に減少
GLP-1が糖尿病の対処療法に使えるかも知れないというアイデアは、以前からありましたが、単にGLP-1を血液中に投与しても、数分で分解されてしまうという欠点がありました。GLP-1は、小腸から膵臓にシグナルを送るためには数分あれば十分ですが、薬として投与するには短命過ぎます。
Novo Nordiskの研究者、Lotte Bjerre Knudsenが率いるチームは、GLP-1と同様の構造を持ちながら体の中で長持ちする物質の開発を90年代から進め、1998年には、毎日の投与が必要なLiraglutideを、2008年には1週間に一度の投与で十分なSemaglutideを作ることに成功したのです。
LiraglutideもSemaglutideも、GLP-1とは若干違うアミノ配列を持っていますが、物理的構造が十分にGLP-1に似ているため、膵臓が持つGLP-1の受容体が勘違いして反応してしまうのです。どちらも、GLP-1は食べ物を食べた時にしか作用しないため、危険な低血糖症を起こす心配がなく、インスリンの直接投与と比べると、安全で管理しやすいのです。
Novo Nordiskは、2型糖尿病の治療薬として(2017年に)FDAの認可を受けたSemaglutideを、Ozempicとして販売を開始しましたが、Ozempicを投与された糖尿病患者の体重が大幅に減少するという情報が口コミで瞬く間に広まり、一部の医者は、本来の目的とは異なる「肥満の治療薬」としてOzempicを処方し始めるという異常事態になってしまいました。
当時、Novo Nordiskは、Ozempicの肥満の治療薬としての流用には否定的でしたが、それが真摯な本音だったのか、単に表向きの「たてまえ」にしか過ぎなかったかは不明です。しかし、当時から、大々的なコマーシャルを放映していたし、肥満の治療薬としての申請もしていたことを考えれば、「流用を喜んで黙認していた」と私は解釈しています。
2021年には、Semaglutideが肥満の治療薬として正式に認可を受け、Novo Nordiskは、Wegovyという商品名で販売を始めました。
Wegovyは、肥満の治療薬としては有効ですが、値段が高く(一月$1,349、約20万円)、保険も効かない上に、投与を辞めると体重が戻ってしまうという欠点を持ちます。にも関わらず、需要はとても高く、生産が追いつかないそうです。
結果として、Novo Nordiskの売上・利益とも爆発的に上昇し、株価総額はこの記事を書いている時点で、$630billionと、Teslaの時価総額($579billion)を超えています。Novo Nordiskはデンマークの経済にとっても大きなインパクトを持ち、デンマークのGDPの伸びは全てNovo Nordiskが稼いでいると言われています。
Novo Nordiskの最大のライバルは、Eli Lillyで、こちは、Tirzepatideという物質ベースの治療薬を、Mounjaro、Zepboundというブランド名で販売しています。Tirzepatideは、Semaglutideと同様に、膵臓のGLP-1の受容体に作用するだけでなく、同じくインスリンの生産を促すGIPの受容体にも作用するそうです。
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