政策面での近さがしばしば指摘される石丸伸二氏と日本維新の会。巷では「石丸氏はいずれ維新に取り込まれてしまうのではないか」との懸念もあがっているが、実際はどうなのか。石丸氏は「第2自民党」たる現在の維新とは対極の存在とみているのは、元全国紙社会部記者の新 恭氏だ。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:石丸伸二氏をつかみ損ねた維新の抱える深刻な第2自民党病
「石丸伸二が維新に取り込まれる」ことはない
東京都知事選で165万票もの得票をした石丸伸二氏の台頭は、よどみ切ったこの国の政治に新風を吹き込む期待感をもたらした。
よってたかって「出る杭を打つ」現象も予想通りはじまっているが、これは例によって伝統的日本社会の集団主義が発動しているだけのことで、とやかく言ってもしかたがない。
今後、石丸氏がどんな政治活動を行っていくのかが取りざたされるなか、頭の中を整理しておきたいのが、政策的に近いとされる日本維新の会との関係だ。
まずは、維新の創設者である橋下徹氏と石丸氏とのX(旧ツイッター)でのやり取りから、話をはじめたい。
<7月11日・橋下徹氏>
今の維新国会議員は完全に古い政治の象徴やからね。領収書の非公開を主張するわ、政治は飲みニケーションだというわ、旧文通費の使途制限や野党予備選から逃げるわ。石丸さんに国政維新をぶっ壊して無党派層を引き付ける新しい第三極を作ってもらうのが日本の政治のためやろうね。
<7月12日・石丸伸二氏>
とするならば、橋下さんに国政維新をぶっ壊して無党派層を引き付ける新しい第三極を作ってもらうのが日本の政治のため、なのかなぁと感じました。
橋下氏は日本維新の会をぶっ壊して新しい第三極をつくれとハッパをかけ、石丸氏は、それをやるなら橋下さんでしょ、と返している。
馬場伸幸代表率いる現在の維新が日本の政治のためにならないということでは、ほぼ一致しているようだし、ネット上では二人のコラボを期待する声も散見される。
【関連】石丸伸二氏と古市憲寿氏の話が「かみ合わない」当然の理由。マスコミがいまだ理解せぬ石丸旋風と大地殻変動の先を読む
とはいえ、橋下氏の維新への愛着が強いからこそ苦言が出てくるのも事実で、石丸氏はそのうち維新に取り込まれるのではないかという観測も湧いてくるわけだが、その心配は無用というのが、現時点での筆者の判断である。
石丸氏と維新幹部の間をとりもった橋下氏だったが
石丸氏と橋下氏は2022年8月20日、ABEMA の「NewsBAR橋下」で対談したのがきっかけで知り合った。橋下氏は、当時、安芸高田市長だった石丸氏の政治手法が、自分の大阪府知事時代と似ていると絶賛した。
今年6月、都知事選への立候補を決めた石丸氏と、東京の維新幹部の間をとりもち、両者の会合を実現させたのは橋下氏だった。
石丸氏は政党の支援を受けるつもりはなかったが、メディアに泡沫扱いされないために維新のステルス的な応援が可能かどうかを確かめたかったようだ。「応援するのであればステルスではなく、推薦しかない」という維新の回答により、話は流れた。
橋下氏はフジテレビの情報番組「めざまし8」に出演し、落胆と不満をこめてこう語った。
「僕も大阪で実は石丸さんと同じような政治スタイルを目指してやってきたつもり。いつの間にか自分がつくった政党の国会議員が自民党より自民党ぽい政治家になってしまった」
橋下氏が大阪府知事となったあと、自民党大阪府議団を離脱した松井一郎氏らと組んでつくったのが大阪維新の会だった。親分肌である松井氏の政治力に党運営を依存し、安倍晋三元首相や菅義偉前首相との親交を深めるなか、維新上層部には自民党的な体質が根強く残ってきた。橋下氏や松井氏が自分の都合で引退したためにタガが外れ、自民党に先祖返りしたかのごとき姿をさらしているだけのことだ。
それでも橋下氏の気持ちはおさまらない。「X」への投稿は、もっと辛辣だった。
今回維新が公に付いたなら石丸さんの160万票はなかった。今の維新国会議員の感覚がズレている象徴例。ここは自民のようステルスで携わらせてくださいとお願いすべきだった。国会議員というだけで自分たちの力を過大評価してしまったのだろう。
維新とくっついた石丸氏など、誰も見たくはない。ステルスであろうと、維新の支援を受けないのが正解だった。
改革とは真逆の存在、馬場維新という「第2自民党」
5月16日発行の当メルマガ「維新の凋落、自民寄りの地金出す馬場代表に責任あり」で、筆者は維新の現状についてこう書いた。
改革政党を標榜する維新は昨年4月の統一地方選・衆参補選での大勝利をピークに、徐々に党勢が弱まってきている。莫大な税金の無駄遣いが指摘され、建設工事の遅れで予定通りの開催すら危ぶまれる大阪・関西万博のせいだけではない。馬場代表の自民党寄りの地金が出すぎて、維新のめざす政権ビジョンがはっきりしなくなっている。(中略)馬場代表がその気になっていきり立つほど、政治家としての器の小ささが目立ってくるという矛盾が、今の維新にはある。
「維新は第2自民党でしかない」という批判に対し、「第1自民党と第2自民党でいいんです」と公言してはばからない馬場氏に焦点をあてて、維新の問題点を指摘したつもりである。
馬場氏のこうした考え方に、吉村洋文・大阪府知事や大阪の地方議員たちは不満を抱いていたが、最近になって一気に党内の亀裂が表面化した。
直接のきっかけは、政治資金規正法改正についての自民党との合意をめぐるゴタゴタに、大阪側から不満の声が噴出したことだった。
政治資金規正法の改正について、維新は、政策活動費の領収書を10年後に公開するなどの修正を自民党に加えさせたうえ、衆院で賛成し、参院では反対した。なぜそんなことになったかというと、維新が賛成の前提条件とした旧文通費の改革をめぐり自民党との間に行き違いが生まれたからだ。
馬場代表は岸田首相との党首会談で「(旧文通費の使途公開など)を100%丸呑みさせた」と鼻高々だったが、自民党が通常国会での法改正を見送る方針を決めたため、面目をつぶされる形となった。馬場代表は「嘘つき内閣」と罵り、参院では異なる対応を指示した。
石丸伸二氏は、今の維新とは対極にある
この問題について大阪から説明を求める声が高まり、6月26日にオンライン会議が開かれた。会議の内容は非公開だったが、関西テレビは「非公開部分」のほぼ全てを収録した動画データを入手し、馬場氏と吉村氏による激しい議論の応酬を公開した。
吉村氏「もう政策活動費について、完全廃止にすべきじゃないかと僕は思っているんです。政策活動費そのものがブラックボックスになっていて、本当に維新にとって必要なのかと。維新は政策活動費をゼロにして完全撤退するんだという中で、自民党とぶつかっていくというのが、僕はやるべき方向性、ケンカのやり方じゃないかな、というふうに思っています」
馬場氏「IRの許可が下りるときもそうであったように、堂々と自民党と真っ向からケンカしても、ただ邪魔されるだけなんで、そこをよく理解しておいていただかんと。何か『大阪から政府に対してモノを言うの当たり前やろ、噛んでいけるの当たり前やろ』と、そういう考えを持たれてたら、われわれも立つ瀬ない。そういうことを理解してほしいですね」
吉村氏「方向性としては賛成なんです。ただやっぱりね、(自民と同じ)船に、政治とカネの問題で乗ってるのは、僕は政策活動費だなというのはちょっと思ってて、ここはもうあの…」
馬場氏「政策活動費はさっきもう話が終わって、今後の展開どうするか引き取らせてくれって藤田幹事長が言うてるわけね。その話はもう終わり!」
自民党と真っ向からケンカしたら邪魔される。だから上手く自民党と交渉してきた。その努力を無視して、文句を言われたら立つ瀬がないと馬場氏は主張しているのである。
これこそが、古色蒼然としたムラ型政治の発想であり、改革を標榜しながら自民党の古い政治に手を貸していることを物語っている。まさに、今の維新は、石丸氏の対極にあるといえないだろうか。
“石丸新党”が野党再編を主導する可能性
維新について、石丸氏は選挙後、YouTubeメディア「ReHacQ」に出演し、こう語った。
「地域政党から国政政党になってからの維新の展開を見ていると、ちょっと大丈夫なのかなと。統一地方選後に勢いが衰えたし、政党として支持が広がらない。関西でも維新系の首長は頭打ちだ。伸びしろあるのかないのかを考えると、新しい箱を用意した方がいいと思う」
やや遠慮気味だが、維新とは一線を画す意思を表明したと受け取れる。
では、石丸氏は今後どうするのか。選挙参謀をつとめた藤川氏はこう分析する。
「もし彼が新党をつくると言ったら、東京都議会議員に出たい人間が何百人も手を挙げてくる。石丸さんの取った票を分析して、いいところに出せばかなりの得票をとって、現実に小池都知事に脅威を与える勢力ができる可能性がある。やるとすれば、これが一番の近道です」
藤川氏は、もし“石丸新党”ができ、次期衆院選において、比例区や注目選挙区で東京に国会議員を何人か誕生させ、さらに都議会議員も生まれれば、東京のローカル政党としてかなりの勢力になり得ると見ているようだ。
維新の失敗を反面教師として、東京から全国に広がるなら、ひょっとしたら“石丸新党”が野党再編のカナメとなる時期が来るかもしれない。
なれ合いの密室政治を破壊する“危険分子”としての石丸氏
既成政党と手を組まず、石丸氏がどこまで政界でのし上がっていけるのか。
きわめて困難な挑戦ではあるが、政界のガラガラポンを促し、自民党に象徴されるこの国の古い政治とおさらばするには、妥協を知らない石丸氏のような“危険分子”が必要かもしれない。
与野党対立の裏側で続いてきたなれ合いの密室政治。交渉、調整をはかるための夜の飲み会で、清濁併せ呑む老獪な政治家が、双方の顔が立つ玉虫色の妥協案を示して手打ちをする。そんな国民不在、党利党略の政治をいつまで生きながらえさせるのか。
石丸氏が証明したように、今や、カネがなくとも能力と情熱があれば、SNSで多くの支援者と寄付金を集めることができる。政治力を再定義し、政党のあり方を見直す時期が訪れているのではないか。
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