プーチンが取りうるウクライナを絶望の底に叩き落す戦略
ここで大きなカギを握るのが【どの程度、プーチン大統領が追い込まれているか】というロシア国内における状況になります。
2022年2月24日にウクライナ全土に侵攻した際には「3日ほどでウクライナは降伏する」と考えられていた戦争も、すでに900日余りが経過し、目立った戦果と言えばウクライナ東南部4州の一部を一方的にロシア領に編入したことぐらいで、その背後では黒海における艦船を喪失し、数万人単位での人的な犠牲も強いている状況がありましたが、今回、ウクライナ軍にロシア領への攻撃を許し、かつ数万人のロシア人の周辺への避難を生み出したことで、モスクワに対する圧力が加わっています。
ウクライナからの攻撃を受けたクルスク州の住民の怒りの矛先はキーウに向いているようですが、これまで持てる戦力を使い切らず、戦争を長期化させ、ついにはロシア国内にウクライナの侵攻を許したという状況は、一様に屈辱と受け取られると同時に、ウクライナに対する苛烈な攻撃をモスクワ(プーチン大統領)に求めるという形に発展してきています。
これまで900日にわたってロシア国内の世論は一様にプーチン大統領の方針を支持し、一部で厭戦機運が高まっても、西側諸国の対ロ制裁が機能せず、市民生活に大きな影響を与えていないということで「戦争は早く終わってほしいが…」という声はあるもののウクライナに対する攻撃を認めている感じがありました。
しかし、今回のウクライナによる越境攻撃を受け、“ロシア”が攻撃対象になったことで一気にプーチン大統領に対ウクライナ作戦の強化と報復を求める声が高まっているようで、今後その声に押され、何らかの形で応えなくてはならないプーチン大統領とその周辺がどのような報復に出るのか、非常に懸念を抱いています。
これがプーチン大統領というよりは、プーチン大統領により激しい対応を求めるロシア政府内の強硬派を勢いづけることに繋がっています。
クルスク州の住民から寄せられる“不満”の矛先は、直接的にはウクライナに向いていますが、間接的には“手ぬるい”モスクワの攻撃にも向いており、それがウクライナへの戦術核兵器の使用を訴えかける政府内の強硬派がプーチン大統領に対して、核使用を要請するという形が出来上がりつつあります。
これがいかに危険な状況かお分かりになるかと思います。
これまでプーチン大統領が何らかの行動を取る際、自身が勝手に決断するという手段はイメージ的に取ることはなく、いつも“誰かからの要請を受けて”行動を決断するという形になっています。
以前にもゲラシモフ統合参謀本部議長やショイグ国防相から「報告を受け、進言を受けて、それを承認する」というイメージ戦略を取っていましたが、今回、メドベージェフ氏(元大統領)をはじめとする強硬派に進言させる形式を取り、それに応えるかたちで“決断する”というイメージを打ち出すことで、ウクライナに対する攻撃のエスカレーションを“国民からの要請に大統領が応えた”という形で承認するのではないかと考えます。
その“エスカレーション”が核兵器の使用を意味するのか、核はまだ温存し、通常兵器でキーウをはじめ、これまで本格的にターゲットにしてこなかった大都市に対する集中攻撃を意味するのかは分かりませんが、仮に後者だとしても、これまでのミサイルによる単発的な攻撃に留まらず、大規模かつ本格的な絨毯爆撃のような形式を取って、ウクライナを絶望の底に叩き落すような戦略を取るようなことに繋がると懸念を抱きます。
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