酔っ払いの爺さんが路上で喚いているかのようなトランプ
私のようなバイデンやトランプとほぼ同世代の者にとっては、「Von Dutch」が2000年代前半に大流行したカジュアルファッションのブランドで、それが今再び脚光を浴びつつあることも、「brat」が若者の間で隠れた褒め言葉となりつつあることも、ピンと来ておらず、その感覚から置いてきぼりにされてしまうのは仕方がない。
しかしそれ以上に注目すべきことに、ソーシャルメディアが今では新次元に進化しつつあって、そこでは、
- meme-ableで
- clippableで
- remixableなもの
がビックリ仰天の波及力を持ち、とりわけ若者層は映像や音楽や気の利いたちょっとお洒落なフレーズなどを通じてたちまちイメージを共感し合ってしまう。しかもエズラ・クラインの見るところ、ハリス=ウォールズ陣営はこの新次元にちゃんと対応できているというのである。
前号でウォールズが吐いた、「トランプ=ヴァンスのコンビってウィアード(weird)=奇妙で、気持ち悪いよね」と表現したのが絶妙な効果を発揮、たちまち流行語となったことを述べたが、bratもweirdも言わば洒脱な表現で、そこそこ知的な若者層には染み渡り易い。
翻ってトランプは、相変わらず「あいつは極左だ」とか「バカだ」とか「悪魔だ」とか、酔っ払いの爺さんが路上で喚いているかの幼稚で汚らしい言葉をネットを通じて吐き散らし、それが一部の余り知性度が高いとは言えない人々から拍手喝采を浴びることを以て満足しているかのようである。
つまり、彼にとってはソーシャルメディアは未だにヘイト・スピーチの道具であり、それはもはや時代錯誤なのである。
これをさらに普遍化すると、トランプの発想は常に、相手を叩き潰せば自分が浮上するという単純なシーソーゲーム理論に頼っている。中国はじめ諸外国からの輸入品に過大な関税を課して流入を阻止すれば米国内の産業が復活するかのようなことを言ってラストベルトの白人労働者の歓心を買おうとするけれども、それとこれとは直接には関係がなく、中国などからの輸入を制限すれば自動的に米国の産業が蘇る訳ではない。
しかも滑稽なことに、トランプとのそのファンたちが冠っている赤地にMake America Great Againと刺繍した野球帽や彼らが打ち振る星条旗の小旗は実は中国製であり、あるいは先日X上でイーロン・マスクと対談した際の映像で明らかになったように、トランプがスマホの下に置いて接続していたのが中国Anker社のバッテリーであって、それらの輸入を止めたり制限したりすれば困るのは彼自身なのだ。
そのように、悪いことは何もかも「誰か」のせいであると外在化して、自分の胸に手を当てて考えるという内面化の回路を持たないのがトランプである。
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