トランプを葬ることができれば十分とさえ言えるハリスの役目
こうして、我々が遠くから見ているのでは分からない、深いところでの米国政治とメディア状況との関わりの変化が、バイデンからハリスへのシフトには孕まれていたのかもしれない。いや、私自身はトランプを忌み嫌っていて、こんなのがまた出てくるようであれば米国の先行きはもちろん世界の将来も危うくなるので、米国の民主党はじめ市民パワーにはしっかりしてくれないと困ると言い続けてきたので、そういう希望的観測も交えた判断に傾くのはお許し頂きたい。それはそれとしても……
第1に、Z世代と呼ばれる21世紀になって生まれてきた若者層は、バイデンvsトランプの爺さん同士のダサいやり取りから決別して「brat」の次元に進み、バイデンなら棄権しただろうけどハリスだと違うかもしれないというところに辿りつきつつある。
第2に、黒人層はこうなればもちろん再結集してハリスに馳せ参じるし、ヒスパニック系、インド系はもちろんそうなるだろう。インド系米国人は2010年代の10年間に55%増えて440万人で、中国系(台湾系を除く)413万人を超えてアジア系のトップとなった。そうは言っても全米人口のわずか1.4%に過ぎないが、IT関係を中心に技術者、研究者、経営者として高収入を得ている者が多く、ハリスが大統領候補になった途端に多額の献金が集まったのも彼らの貢献が大きい。
米日の左翼メディアの一部に、ハリスが経済界から多くの献金を得たことを以て「やっぱり、ヒラリーと同様、財界=軍産複合体の飼い猫か」といった論調があるが、それは余りに観念的というものだろう。インド系に限らず、経済界の主流はバイデンとトランプのどちらになっても対中国ビジネスを目の敵にしそうなことにウンザリしていて、ハリスになればそこが少しは違ってくるかもしれないと期待しているという要素もある。
そして、インド系に吊られてアジア系全体もハリスに傾く。
第3に、もちろんあらゆる人種、階層を超えて多くの女性は、トランプ爺さんの2度目の政権を許すよりも、初の女性大統領が実現するという歴史的瞬間に自分も一票を投じて参加したことを末代までの自慢にしたいと思うだろう。
そのようにして、つい先日までは何も面白いことはなく、どちらかと言えば棄権した方がいいのかなあと思うような凡庸な大統領選が、自らのアイデンティティとも関わる直接的な関心事として俄かに浮上してきたのである。
もちろん選挙には何が起きるか分からないが、私はハリス登場で局面が大きく変わり、トランプ再登場という米国と世界にとっての悲惨が回避しうる可能性が出てきたことを重視したい。ハリスの資質がどうだ、政策がどうだと文句を言う人も少なくないが、バイデンでは100%不可能だったトランプ阻止が、ハリスによって50%でも可能性が出てきたのだから、そこに賭けるべきだろう。逆に、とりあえずトランプを葬ることができれば、彼女の役目はそれで十分とさえ言える。
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年8月19日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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