9月6日で開始から1ヶ月となったウクライナによるロシアへの越境攻撃。この攻撃に対してプーチン大統領が核兵器での報復を行わなかったため、ロシアの核使用は単なる威嚇に過ぎなかったとする声も一部で上がっていますが、それは信じるに足るものなのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、「ウクライナはレッドラインを越えた」とする米高官の発言を引きつつ、ロシアが核兵器の使用に踏み切ることは大いにあり得ると指摘。さらに越境攻撃を受け欧米各国がウクライナとの距離を置き始めた現実を紹介するとともに、ゼレンスキー大統領が描く「ウクライナ優位での停戦協議」は儚い幻想に終わるとの分析を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:同時進行的に踏み越えられたレッドライン‐カウントダウンが始まった世界崩壊までの時計
ウクライナの「レッドライン越え」がトリガーに。もはや止められない世界崩壊までのカウントダウン
「ウクライナもイスラエルも、アメリカ政府が設定したレッドラインを越えてしまった。これ以上、あまり積極的に関与することは望ましいとは考えない」
この発言の主は明かすことはできませんが、アメリカ政府内で安全保障政策と国際案件を仕切る人物が吐露した内容です。
2022年2月24日に起きたロシアによるウクライナ全土への侵攻後、アメリカ政府が一貫して掲げている方針は、ウクライナ領土の防衛と主権国家としての存続の確保を目指すことで、戦争がロシア領内に持ち込まれる可能性があるいかなる提案や行動はすべて危険であり、ロシアを刺激して、核戦争、つまり第3次世界大戦に至りかねない事態を絶対に回避することとされてきました。
しかし、ウクライナがロシアのクルスク州への越境攻撃を、アメリカへの事前相談なしに実施したことで、最悪の場合、バイデン政権は「ウクライナの支援の継続」か「第3次世界大戦の回避」かを近々選ばないといけない事態に陥る危険性が高まっているようです(もちろんその時は後者を選択するのだと信じますが)。
すでにアメリカ政府内(国家安全保障会議など)でも「ゼレンスキー大統領はアメリカを意図的に第3次世界大戦に引きずり込もうとしているのではないか」という懸念の声が高まっており、「このままウクライナの独断専行をアメリカ政府が見逃すようなことがあれば、プーチン大統領のレッドラインを踏み越え、ロシアとの直接衝突の前線にアメリカが引きずり込まれ、おして核戦争に至る可能性がある」という危険を真剣に捉え、検討されています。
オーバーリアクションだと非難されるかもしれませんが、ロシア政府内では核兵器の使用の脅しのみならず、実際にロシアが使用のための訓練を繰り返し、ベラルーシに核を配備し、そして使用について頻繁にプーチン大統領を交えた報告と意見交換が政府内で行われていることは事実であり、もしプーチン大統領が自身の政治的な生命の危機を感じた際には、ロシアが核兵器の使用に踏み切ることは大いにあり得ると考えられます。
欧米の多くのアナリストたちは「越境攻撃を受けても核を使用しなかった段階で、すでにロシアは核兵器を使えないことを証明した」という楽観的な分析を示していますし、ゼレンスキー大統領も「ロシアのレッドラインなどと言うものは存在しない(だから欧米はロシアへの攻撃を強めるべき)」との論調を強めていますが、アメリカ政府も英国政府も、ドイツ政府も、そしてNATOもロシアによる核使用を阻止できているとは見ておらず、ロシアをこれ以上、刺激することは自国の安全保障上好ましくないと考え、ウクライナへの支援にどんどん及び腰になっているようです。
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