女性が、自転車に乗った男に追い抜きざまに体を触られる性被害が、東京都中野区や練馬区で相次いでいる。警視庁は「ワンタッチ痴漢」と名付けて注意喚起。ところが、その無神経なネーミングセンスにSNSでは疑問の声が続出している。
「ワンタッチ痴漢」にご注意!? 警視庁の呼称にネットざわつく
時事通信の5日付記事「相次ぐ『ワンタッチ痴漢』にご注意! 自転車で抜きざまに胸触る―警視庁」が、ネットで議論を呼んでいる。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024090500157
自転車に乗った犯人が、追い抜きざまに女性の体を触り、そのまま逃走する痴漢犯罪が東京都中野区や練馬区で相次いでいることを伝える内容。警視庁はこの手口を「ワンタッチ痴漢」と呼んで捜査しており、近隣住民に注意を呼びかけていると報じた。
ところがSNSでは、この「ワンタッチ痴漢」のネーミングに違和感を覚えるユーザーが続出。語感が軽すぎる、痴漢被害者をバカにしている、立派な犯罪なのに罪の意識まで軽くなってしまう、といったコメントが多数投稿され炎上する事態となった。
《なにが「ワンタッチ痴漢」だ、性犯罪をカジュアルに言い換えんな》
《なにそのふざけた呼称。被害者の立場からするとものすごく不愉快》
《じゃあ、ナイフでひと突きされるのはワンタッチ通り魔ってこと?》
《こっちは子供の頃にこれやられて、ずっとトラウマになってるんだよ》
《痴漢犯罪に対する警察の意識の低さよ。ネーミングで遊んでるだろ》
《これ考えたの絶対に男でしょ。減るもんじゃないし的な圧がヤバい》
《こんな時代錯誤のネーミングにNGを出す内部の人間はいなかったのか?》
「ワンタッチ〇〇」が犯罪行為のネーミングに向かない理由
「ワンタッチ」(one touch)という言葉の原義は「一度だけ触れる」だ。だが同時に、「一度触れれば済むほど簡単に操作などができる」という意味もある。日常生活ではむしろこの用法が主流だ。ネットメディア編集デスクが指摘する。
「多くの人々が“簡単ラクラク、ワンタッチ痴漢”のようなニュアンスで受け取ってしまったのは無理もないことです。世の中には便利な“ワンタッチ商品”があふれており、否定的な意味で使われることはまずありませんからね」
テント、蚊帳、各種スプレー、折りたたみ傘、電動缶切り、エプロン、ネクタイ、まつ毛エクステ、おつまみ、電子決済など、「ワンタッチ」を謳う商品やサービスには、いずれも一度使ったら手放せない利便性がある。サッカーのワンタッチパスやワンタッチシュートにしても華のあるプレーだ。簡単ラクラクな「ワンタッチ痴漢」を性犯罪者に推奨されてはたまらない、といった意見も出ている。
いっぽう、このネーミングの代替案を考えるとなると、それも一筋縄ではいかないようだ。
「自転車などで追い抜きざまに、女性の体に一瞬だけ触れる、というのがこの手口の特徴です。世間に注意喚起するため、別のネーミングを考える際もこれらの情報は必須、となると実はけっこうむずかしい。なかなか名案を思いつきません」(前出のネットメディア編集デスク)
単に似た意味の言葉に置き換えるだけでは、「おまかせ痴漢」「手間いらず痴漢」「全自動痴漢」など、犯罪をさらに後押しする呼称にしかならない。かといって「ダイレクト痴漢」では服の中に手を突っ込む別の犯罪に聞こえるし、「一瞬だけ、一度だけ触れる」という手口に関する情報も失われてしまう。
もっとも、被害者目線で考えれば、瞬間的だろうが長時間だろうが痴漢犯罪は痴漢犯罪でしかない。ならいっそ「一瞬だけ、一度だけ」の部分は捨てて、「すれ違いざま痴漢」「追い抜きざま痴漢」などと注意喚起してはどうか――。
「警視庁の“中の人”もそんなふうに悩み、職業柄『追い抜き』と『追い越し』の違いにこだわるなどした結果(?)、一周回って語呂のいい『ワンタッチ痴漢』に着地してしまったのかもしれません。ただ実際には、このような痴漢犯罪は地域に関係なく昔から発生し続けているわけです。実際に被害に遭った経験をもつ女性もたくさんいますから、さすがに無神経だったと思います」(前出のネットメディア編集デスク)