実は低所得者にも利点?小泉進次郎氏がなくす「年収の壁」
次に小泉進次郎氏は、年収の壁をなくすとしています。具体的には、現在の「壁の内側」つまり年収で106万円未満の人は厚生年金の対象となっていないのですが、これを対象にするわけです。これに対しては「低所得者からカネを吸い上げる」と批判されています。
ですが、小泉氏の提案は非常に重要な問題提起になっています。それは、年収の低い人も国民年金ではなく厚生年金にするということは、保険料の半分は雇用側が支払うということです。ですから、国民年金よりは少し良い年金を、半額は会社負担で積み立てることができるわけです。
勿論、このやり方の他には、国民年金と厚生年金を一元化するという可能性もあるわけですが、こちらは何十年議論しても進まずに来ています。そうではなくて、とりあえず年収の低い人も、基本的に全員を厚生年金に入れて行くというのは、それはそれで大きな改革になります。年収の壁がなくなるだけでなく、将来の年金が改善されるし、雇用側からの半額負担が加わるというのは悪い条件ではありません。
更に小泉氏は、解雇規制の緩和を提案しています。これは大きな改革ですが、ダメだ、ダメだと騒ぐだけでなく、どう考えても日本においては人材のミスマッチや、世代間不公平など、雇用が硬直化することで生産性が上がらないという問題はあるわけです。これを突破するために、この議論を進めることは重要だと思います。
一つだけ指摘したいのは、解雇規制を緩和するには、労働市場の確立が必要ですが、そのためには「ジョブ型雇用」が必要ということです。また「ジョブ型雇用」というのは、大学にせよ学び直しにせよ、教育とセットで考えなくてはなりません。
解雇されても、学び直しで競争力を高めて労働市場に出て職をゲットするということは絶対に必要です。また雇用においては、漠然としたコミュ力と基礎能力を評価して、後は社内で「自己流のその会社でしか通用しないスキル」を入れて使うという「全く間違った日本流」が横行しています。
そんなことをやっていて、「自社でしか通用しないスキル」しか入っていない人材を大量生産し、コストが上がると切り捨てる、そんなことでは社会全体の生産性は崩壊します。とにかく、「ジョブ型雇用」「そのための教育」「そのためのスキルの標準化」が揃ってはじめて解雇要件の緩和を議論できるのです。
いずれにしても、それぞれに、かなり現状との間には飛躍のある「改革提案」をしているのは興味深いことです。これを機会に、内容について深堀りした議論が喚起されればいいと思います。
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