西洋医学の薬剤だけでなく、多くの日本人が服用している「漢方薬」。その多くは、複数の種類の生薬を調合したものですが、その組み合わせには多くの苦労があったようです。糖尿病専門医で自身も二型糖尿病である江部康二さんは、自身のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』で、漢方薬のルーツに思いを馳せながら、古代中国人の経験や犠牲に敬意を払っています。
漢方薬のルーツ
さて今回は、漢方薬のルーツのお話です。
漢方薬が薬として成り立つまでには、昔の中国の人々の様々な苦労があったことでしょう。
一般に民間薬の場合は、「ドクダミ健康法」とか「ハトムギ健康法」とか、一種類の生薬だけで、どんな症状にも有効という、アバウトなイメージです。
しかしワンパターンなので、害もないけれどそんなに良く効くという印象はないことがほとんどです。
一方、漢方の場合は、民間薬のワンパターンに対して、生薬を組み合わせて方剤として処方することで、薬効を高めいろんな病態に適合させて有効性を高めています。
例えば、桂枝湯(桂皮、芍薬、甘草、生姜、大棗)とか葛根湯とか麻黄湯などの方剤ですね。
さて、それでは漢方薬のルーツと題して、古代中国に想像力を馳せてみます。
中国古代伝説中の三皇帝の一人に神農がいます。
外観は人間ですが頭には神のシンボルである二つの知恵コブがありました。
民に農耕を教えたことから神農と呼ばれるようになりました。
また神農は百草(多種類の生薬)を服用して薬効を確かめていたために、一日に70もの毒に遇ったそうです。
そして医薬の始祖として古くから医家に祭られていました。
神農は神様なので毒で死なずにすんだようですが、結構危ない目に遭った人もいたようです。
それではここで古代中国のとある架空の村にタイムスリップしてみます。
ある日、村長の劉備さんが風邪をひいて、麻黄という生薬を飲んでみました。
でも効果がないので、物知りの孔明さんに聞いて桂皮と併せて服用してみるとうまく汗がでて、風邪の症状がスッと楽になりました。
これを聞いた隣村の曹操さんが風邪をひいた時この二味を服用したところ、汗が出て、また汗が出て、さらに汗がでて、とうとうショックみたいになって、家人は大騒ぎでした。
「こりゃ、まずいな」と反省した孔明さんは、この二つの生薬に甘草を加えて汗が出すぎないように一工夫。
さらに咳止めの杏仁を入れて、麻黄湯(麻黄、杏仁、桂皮、甘草)という四味のバランスのとれた処方が完成しました。
とまあこんな感じで、先人の経験や犠牲のもと、効果が出やすくて、副作用がでにくい漢方生薬の組み合わせが蓄積されていったものと考えられます。
この組み合わせの妙が、一味でワンパターンの民間薬と違うところで、漢方薬最大の特徴で長所といえます。
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