石破“新総理”はどう動く?意図的に忘れられるウクライナ、透けて見える「できるだけロシアを刺激しない」という各国の意図

 

ほとんど行われていないウクライナについての議論

そんな中、興味深いのは、ロシアの影響があるのかもしれませんが、ウクライナについての議論が今のところほとんど行われていないことです。

メディアなどには公開されないClosedの議論では出てくるものの、以前ほどのウクライナへの支援に対するモメンタムはなく、支援国のみならずウクライナ疲れが国連においても目立つようになってきたように感じています。

紛争当事国であり、かつ安保理常任理事国のロシアは、国連での議論を意識的にガザ問題に振り向け、ウクライナ関連の議論に触れないように努めているように見えますし、アメリカや欧州各国のスタンスも、ガザ問題および中東における情勢悪化への懸念に集中しているように見えます。

もちろん、実際の委員会などでの議論ではウクライナの話もしていますが、聞くところによると、停戦云々の調停のお話しというよりは、「いつになるかわからないが、ロシア・ウクライナ戦争が終わったら、どのように戦後復興を続けるか」というpost-conflictのアレンジメントに重点が置かれている印象です。

戦況に対する分析結果や、最新の情勢を踏まえたいくつかの詳細な調停案の協議はもちろん行いますが、各国の関心は“戦後”に向いています。

ただ8月6日以降実施されているウクライナ軍によるロシアに対する越境攻撃によって、この戦争はしばらく長引くとの見方が多く、ゼレンスキー大統領が狙ったとされる【交渉において少しでも優位な要素を獲得するという目的】は、逆に戦況をややこしくし、さらに停戦の実現を遠ざけたという評価が強いように感じます。

今は各国ともにできるだけロシアを刺激しないようにしようという思惑が透けて見え、「取りあえずは来週に開催される首脳による一般討論演説が終わるまではウクライナ問題には触れない」という暗黙の了解でもあるような雰囲気で、これまでの熱の入れようと比べて、ちょっと不思議な感じです。

代わりに昼夜問わずheated debateが行われているのがガザ問題を中心にした中東情勢の緊迫化についてです。イランによる対イスラエル報復攻撃は、一般討論演説が終わるまではないという見立てが多いですが、それを変えかねないのがここ数日連続しているサイバー・電子攻撃によるヒズボラ戦闘員・構成員の暗殺事件です。

7月末以降、イスラエル軍はヒズボラの幹部の暗殺を決行して、対ヒズボラ戦線を開きましたし、関与は認めていないものの、ほぼ確実にイスラエルが実行したと言われているハマスのリーダーであったハニヤ氏のテヘランでの殺害によって、ハマスを再度強硬姿勢に戻し、イラン政府を挑発する行為が続いており、そしてここで電子攻撃によるヒズボラへのハイテク攻撃によって、自らの退路を断ったような行動に出ています。

ヒズボラは今後、イスラエルへの攻撃を行うことになるでしょうし、これまで自制してきたイランもそろそろ国内の強硬派の声に押されてイスラエルへの報復を実行しなくてはならなくなる恐れが高まります。

一旦何らかの形で引き金が引かれたら、その後はドミノ倒しのごとく、戦火は中東全体に拡大し、それが地中海を越えてアフリカ東部・欧州南部へと飛び火する恐れが出てきます。そしてそれはまた中央アジア方面にも火の手が延び、ロシア・ウクライナ戦線と繋がってしまったら一気に世界大戦争です。

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