人類史上最大の建造物として知られ、世界遺産にも登録されている万里の長城。そんな建造物の「現代版」が、習近平政権により、しかも他国の領土に許可なく建てられているという事実をご存知でしょうか。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では、中国が国境のネパール側に壁や柵を建設しているとするニュースを紹介。さらに中国によるサイバー空間の侵略や大規模化するスパイ活動についても取り上げ、そのような動きに対してあまりに無防備な日本政府に疑問を呈しています。
※ご高齢ということもあり、今年3月からメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の「ニュース分析」コーナーの執筆をスタッフに任せて、自身は「国家論」の連載に集中していた台湾出身の評論家・黄文雄さんが、7月21日に85歳で永眠されました。今後もメルマガは黄さんの思いを継ぐスタッフにより継続されます。
※本記事のタイトル・見出しははMAG2NEWS編集部によるものです/原題:【中国】他国領土に「新・万里の長城」を密かに築く中国
「新・万里の長城」を他国領土に許可なく建設の中国が次に狙う「空間」
● 中國邊境「新長城」蠶食尼泊爾領土?(中国の「新・万里の長城」がネパールの領土を侵食?)
尖閣諸島や南シナ海周辺海域で自国の領土拡大を目論み、領海侵犯や領空侵犯を繰り返す中国ですが、陸においても領土拡大の動きを活発化させています。
数年前から、ネパールでは中国が国境を超えて侵入してきていることが報告されていました。ネパールと中国はヒマラヤ山脈に沿って1,400kmにわたり国境を接していますが、とりわけネパール最西部のフムラ地区で、中国が不法に侵入しているといわれてきました。
● 中国、国境を越えてネパールに侵入か ネパール政府報告書をBBCが入手
そして最近、この国境の村フムラ地区で、中国は壁や柵を築き、圧力をかけてきているというのです。国境の中国側はチベットです。中国はチベット人がチベットからネパールへ亡命するのを防ぐために、壁や柵をネパール側に築いていると見られていますが、地元住民はこれらを「新・万里の長城」と呼んでいるのです。
もともとの万里の長城とは、北の夷狄が中華に入り込むのを防ぐためのものでしたが、現在では、少数民族が逃げ出さないように囲うための「柵」としての役割に変わっているようです。
こうした侵略的行為に加えて、中国の治安部隊は、ネパール国境付近のネパール人居住区で亡命チベットの精神的指導者であるダライ・ラマの肖像画を掲げることを禁止するよう圧力をかけているため、ネパール人の不満は高まりつつあります。カトマンズなどで散発的に抗議運動も発生しています。
この記事の著者・黄文雄さんのメルマガ
中国の侵略行為や圧力を正式に認めようとしないネパール政府
ところがネパール政府は中国と揉めることを懸念し、中国の侵略行為や圧力を正式に認めようとしていません。その背景には中国からの経済支援もあるとしています。
3年前、ネパール内務省の職員、測量士、警察官からなる調査チームが、ヒムラ地区の最も辺鄙で険しいヒルサ村まで足を運びました。中国政府との国境を公式に定めた1960年代の地図を携え、チームは実際の国境が一致しているかどうかを調査したのです。
しかし、チームが報告書を提出した後、その報告書は跡形もなく消えてしまいました。一般市民はもちろんのこと、高官や政治家でさえもその閲覧は拒否され、さらに、その年の地図は機密漏洩につながる可能性があるとして、調査員たちに共有しないよう警告もされたのです。
ニューヨーク・タイムズが入手した報告書の写しによると、調査チームはヒルサ村とその周辺における防御施設や監視設備などのインフラ建設を含む、中国による一連の小規模な国境侵犯を記録していました。これらの施設の一部はネパール国内に位置していますが、その他は両国間の協定により建設が禁止されている緩衝地帯に位置していました。
また、中国国境警備隊は勝手にガンジス川の灌漑用水路を使用し、地元のチベット系ネパール人が家畜を放牧したり、宗教活動に参加することを違法に妨害するということまで行っていたことが明らかになりました。
報告書では、中国が抱くより壮大な地政学上の意図に対するネパールの懸念と、この強力な隣国を怒らせることへのネパール側の恐れについても触れつつ、ネパールと中国には緊急にさまざまな国境紛争を解決する必要があるが、合同査察を含む二国間メカニズムは2006年以来停滞していると指摘していました。
もともとネパールは伝統的に非同盟中立ですが、とりわけインドと強い結びつきにありました。
ここに割って入ろうとしているのが中国で、一帯一路構想により、インド勢力圏からネパールを引きずり出そうとしてきました。今年7月にはネパールに親中派の首相が誕生し、インドも神経を尖らせています。
中国の無法やスパイ行為を伝えない日本メディアの不思議
こうした物理的な空間の侵略に加えて、サイバー空間での中国による侵略もますますひどくなってきています。
ウォール・ストリート・ジャーナルは10月14日、最近の複数のハッカー攻撃により、中国のスパイ活動の深刻さが浮き彫りになったと報じました。FBIは先月、中国政府と関連のある組織が、ルーターやカメラを含む世界中の26万台のネットワーク機器をハッキングしたと報告。被害に遭った国には、米国、英国、フランス、ルーマニアなどが含まれています。
米国議会による調査では、中国製のコンテナクレーンに組み込まれた技術により、中国がこれらの吊り上げ装置を遠隔操作できる可能性があることが明らかになりました。さらに、ニューヨーク州知事キャシー・ホーチュル氏の元補佐官も、中国にスパイ行為を行っていた容疑で起訴されています。
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報道によると、中国のハッカー活動はさらに拡大しており、米国政府のネットワーク監視システムに侵入し、そのハッキング能力の広範さを明らかにしているそうです。欧米の諜報機関は、中国と関わるリスクが徐々に高まっていると企業や個人に警告していますが、今のところ中国のスパイ活動を効果的に阻止できていません。
中国の諜報活動の規模は、冷戦時代のソビエトのスパイ網をはるかに上回り、推定60万人が関与しているとされています。欧米諸国では、中国が国家の安全保障機関だけでなく、民間企業や一般市民も動員して、前例のない規模のスパイ活動を展開していると警告しているのです。
最近では、APT31と呼ばれる中国のハッカー集団が米国の政府関係者、ジャーナリスト、企業、民主活動家を標的としたサイバー攻撃を仕掛けていたことが明らかになりました。英国当局も、このグループが数百万人の英国有権者のデータを盗んだことを明らかにしています。
こうした状況を受け、米国司法省は中国在住とみられるハッカー7人を相手取り、サイバー侵入を行ったとして訴訟を起こしました。英国も関係者のうち2人に対して制裁を科しています。
欧米や台湾のメディアはさかんにこうした中国による侵略行為やスパイ行為を伝えますが、日本のメディアも政治家も、きちんと伝えることがほとんどありません。これだけ世界で中国によるスパイ活動が報告されているにもかかわらず、日本でスパイ防止法を作ろうと提案する政治家もまずいません。それはなぜなのでしょうか?
危機感のなさと世界情勢への対応の遅れが日本の最大のリスクであり、いまだ憲法改正すらできないことが、日本経済が30年も停滞していたことの一因でもあるのだと思わざるをえません。
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※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2024年10月16日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込660円)。
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