新聞も週刊誌も読まない。テレビも見ない。情報はスマートフォンから入手する者が、とくに若い世代で主流になっている。
そこで既成のメディアで報じられていることが「事実ではない」とする情報が容易く信じられるようになった。
兵庫県知事選挙で10代から30代の投票行動が斎藤候補に流れた理由だ。フェイク情報横行の時代である。
小林製薬の「紅麹」サプリが健康被害を生んだときのことだ。小林製薬がワクチンによらない新型コロナウィルスへの有効成分を発見したため、ワクチンを推進する政府によって潰されたという「情報」がネットで広がった。その情報が過剰に流れるほどに「自分の知識がないからなのか」と疑心暗鬼になり、いつしか「事実」であるかのように思い込む人が増えていったという。
ここでより本質的な2つ目の問題に立ち向かわなければならない。人間はなぜ一方的な情報にいとも簡単に影響され、行動してしまうのかだ。
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これは戦前、戦中から連綿と続く日本人の精神構造に関わっているだろう。その象徴的な標語が「バスに乗り遅れるな」だ。
1940年5月10日、ドイツは第二次世界大戦を本格化させる。オランダの降伏、ベルギーの首都ブリュッセルの陥落、英仏連合軍の敗退。フランスの全面降伏。このとき日本の政界、軍部、メディアは、ドイツと同盟を結んで「アジアに新秩序」を築こうとする世論が高まった。
半藤一利さんは最後の著作 『戦争というもの』(PHP、2021年) で、この時代を振り返り「国民的熱狂をつくってはいけない」のが教訓だという。「つくって」ではなく「流されては」だ。
「熱狂」は理性的なものではなく「感情的な産物の」で、とくにメディアに煽られると、熱狂が権威を持ちはじめ、人々は押し流されていく。
ひるがえって、SNS時代のいまは、ファクトチェックもない情報が「垂れ流される」ままに増幅していく。少なくともメディアが事後に検証するのではなく、リアルタイムで事実確認や問題点の指摘に力を注いでいれば、状況は変わっていたかもしれない。
ネットの撹乱情報には同じ土俵で対応するしかない。「熱狂」には「冷たい理性」が必要なのだ。
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