アサドがコスパ重視で多用した「タル爆弾」の恐怖
しかし、アサド大統領は、これと同じことを自国であるシリアに対して行なっていたのです。アサド大統領は「反体制派が隠れている」と言って、シリア国軍にシリア国内の学校や小児病院を空爆させ、自国の人々、自国の子どもたちを虐殺し続けていたのです。人の命など何とも思っていない「悪魔のキリン」ことアサド大統領は、自国民に対して何度も化学兵器を使ったことでも批判されて来ましたが、あたしが何より恐怖を感じたのは、アサド大統領がコスパ重視で多用した「タル爆弾」です。
中央に強力な爆薬、その周囲に大量のボルトやナットを詰めた「タル爆弾」は、軍事用ヘリから目標の小学校の校庭や小児病院の中庭などに投下すると、着弾とともに爆発し、大量のボルトやナットが銃弾のようなスピードで周囲に飛び散り、広範囲の人々を無差別に死傷させるのです。この「タル爆弾」の犠牲になった子どもは数多くいますし、一命は取り留めても両足や片足を失った子どもは数えきれません。
これまでの14年間に渡る「シリア内戦」で、犠牲になった人は50万人超、家を捨てて周辺国や国境などに逃れた難民は600万人超と見積もられています。こうして数字にしてしまうと命の重さが感じられなくなってしまいますが、この犠牲者1人1人に家庭があり、人生があったのかと思うと、あたしは気が遠くなるほど悲しい気持ちになります。そして、何より悲しいのが、大人が始めた戦争で、何の罪もない子どもたちが犠牲になり続けていることです。
シリア内戦のここまでの長期化と泥沼化を招いた要因
「シリア内戦」が泥沼化した最大の原因は、そこに参戦した組織の数と関係性が極めて複雑だったことです。もともとは一般の国民による平和的な反政府デモでしたが、それをアサド大統領が武力鎮圧したことで、シリアの反体制派の武装組織がシリア国軍と交戦を始め、さらに複数の民兵組織が参戦したのです。もっとも曲者(くせもの)なのが「YPG(クルド人民防衛隊)」で、アメリカからの支援を受けているのに、水面下ではロシアとも繋がっていて、場面場面でアサド政権側についたり、反体制派についたりして来ました。
さらには、かつて「イスラム国」と呼ばれていた「ISIL」や「ヌスラ戦線」などが混乱に乗じて参戦して来たことで、完全に収拾がつかなくなったのです。その上、ロシア寄りでアサド政権を支援するイランや、アメリカ寄りで反体制派を支援するトルコなど、周辺国もそれぞれの立ち位置があるため、「シリア内戦」はゴチャゴチャに絡まった釣りの仕掛けのように解けなくなり、長期化を余儀なくされたのです。
親を失った子どもたちだけが暮らす難民キャンプも
「シリア内戦」が始まった翌年から、シリアの現状を知るようになったあたしは、危険なシリアからは脱出したが、他国に入ることができないシリアの人々が暮らしている、国境地帯の数々の難民キャンプの実態に驚きました。現地や周辺国の報道を確認し、民間の非営利団体の情報を精査し、YOU TUBEで現地の映像を観て、少しずつ実態が分かって来たあたしは、内戦で親を失った子どもたちだけが暮らしている難民キャンプがあることを知りました。
国連機関や民間の非営利団体などがバックアップしていても、それは誰の目にも不十分であり、食べ物どころか水や毛布や衣料品すら不足していたのです。そこであたしは、もっとも信頼できる窓口から、わずかなお金を寄付しました。そんなことしかできない自分の無力さに悲しくなることもありましたが、あたしの大好きな『ハチドリの一滴』というお話を思い出し、翌月も、翌月も、翌月も、今まで13年間、ずっと寄付を続けて来ました。
そのため、今回アサド政権が倒れて、難民たちが続々と国内に戻り始め、シリア各地でアサド大統領の銅像を破壊したり写真を焼いたりして歓声を挙げている人々のニュース映像を見て、あたしは心の底から「良かった」と思いました。
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