国際的に暫定政権とは認められていないシリアの反体制派
しかし、冒頭にも書いたように、アサド大統領は次の大統領に政権を譲って身を引いたのではなく、自分と自分の家族だけ助かろうと無責任に政権を丸投げして逃亡したのです。つまり、現在のシリアは、国際的には「無政府状態」なのです。
今回、父親の時代から二代に渡ってトータル53年間の独裁を続けて来たアサド大統領からシリアを奪還したのは、シリア北西部イドリブを拠点とする「シャーム解放機構(旧ヌスラ戦線)」を中核とする反体制派でした。この混合チームは11月27日、イドリブから進撃を開始し、11日間でシリア各地の主要都市を次々と制圧し、主都ダマスカスに到達しました。
しかし『ちびまる子ちゃん』の藤木君より卑怯なアサド大統領は、反体制派の武装集団がダマスカスに迫る中、シリア軍や治安当局の高官らには「すぐにロシア軍が支援に来るから」と大嘘をつき、側近や親族にも告げないまま、自分と家族だけでダマスカスからトンヅラしたのです。そして、シリア内のロシア基地に匿(かくま)ってもらい、ロシア軍機でトットと夜逃げしたのです。
そして、反体制派のダマスカス到達と同時に、アサド大統領から騙されていたことに気づいたシリア軍と治安当局は、そんな人物のために戦う義理などないと、無抵抗で白旗を上げました。そのため、首都ダマスカスは数時間で陥落し、シャーム解放機構は12月8日、「首都ダマスカスは暴君バシャール・アサドから解放された」と宣言したのです。
これが今回のアサド政権崩壊までのアラスジなので、当然の流れとして現在はシャーム解放機構がシリアの暫定政権としてダマスカスを押さえています。しかし、このシャーム解放機構は、国連やアメリカからはイスラム過激派のテロ組織に指定されているので、国際的には暫定政権とは認められていません。
3年前のアフガニスタンと酷似するシリアの現状
これって3年前のアフガニスタンと同じだと思いませんか?軍事面でも経済面でも当時はアメリカが重しとなっていたアフガニスタンでしたが、3年前の2021年8月にバイデン大統領が米軍を撤退させたことで、イスラム過激派のタリバンが首都カブールを制圧し、当時のアシュラフ・ガニー大統領はトットと国外へ亡命。そっくりですよね?
ちなみに、この時は「何で米軍を撤退させたんだ!」とバイデン大統領が大炎上しましたが、これは気の毒すぎました。何故なら、タリバンからの「米軍撤退」の要求にホイホイと合意したのは、その前のトランプ大統領だったからです。そして、その政権を引き継いだバイデン大統領は、自分の就任前のタリバンとの約束を守って、仕方なく米軍を撤退させたのです。
それなのに、それでアフガニスタンが無政府状態になったら、その原因を作ったトランプ大統領が先頭に立って「米軍を撤退させたバイデンは無能で無責任だ!」と大声で批判し始め、自分の過激な支持者らを煽ってバイデン攻撃を繰り広げたのです。
そんなアメリカの国内事情から生まれた現在のアフガニスタンのタリバン政権ですが、3年が過ぎた今も、タリバンの最高指導者であるハイバトゥラー・アクンザダ氏がアフガニスタンのトップに君臨し、同じくタリバンの共同創設者の1人であるハッサン・アフンド氏が暫定的に首相をつとめており、未だに国際社会からは政府承認されていません。それは、アメリカがタリバンをイスラム過激派のテロ組織に指定して「最も血塗られたテロリスト」と呼んでいるからです。
ま、タリバンは、2018年の1年間だけでも5,000人以上を殺害しているので、テロ組織の指定は仕方ないかもしれません。でも、それならアメリカは、これまで世界中で繰り広げた戦争で、いったい何百万人を殺して来たのか?と聞きたいです。日本中の都市を空爆して2発の原爆を投下した時、アメリカは日本を「テロ国家」に指定しており、自国の戦争犯罪を「テロ国家への正当な攻撃」だと言いました。そしてアメリカは、これと同じことを今も続けているのです。
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