メルマガ『佐高信の筆刀両断』の著者で辛口評論家として知られる佐高さん。今回は、同じく辛口評論家と言われていた故・山本夏彦さん(1915-2002)に対しての気持ちを、包み隠さずに暴露しています。
標的にしたタレント文化人 山本夏彦
山本も辛口評論家と言われた。しかし、山本の辛口と私の辛口は明確に違う。それを私は『噂の真相』の1992年6月号で指摘した。
「大会社大銀行大スーパーはよいことばかりして大をなしたのではない。悪知恵を絞って他を倒して大きくなったのである。それなのにその張本人である社長が、誠意や正直ばかりを説くとは図々しい」
山本は『「豆朝日新聞」始末』(文春文庫)でこう言っている。
私も思わず手を叩きたくなるタンカだが、こう書かれても、「大会社大銀行大スーパー」は痛くもかゆくもないのである。
これが「三井住友銀行」とか、「トヨタ」とか、「イオン」とか、具体的に書いてあるなら、話は違う。しかし、「大会社」といった書き方では、何の批判にもならない。毒舌とか言われる山本の毒は自己消毒された毒だということである。
その証拠に、固有名詞が出てくるところでは、山本の書き方は礼讃になる。
「テープならソニーだけ一流であとは二流三流ということはない。ソニーが一流ならナショナルも一流である。自動車ならニッサンがよければトヨタもいい。よくなければ落伍するから、1社だけがいいということはない。メーカーが5社あれば5社はほぼ同様に一流である」
こうなったのも「みんな競争のたまものである」と山本は言うのだが、朝礼とかで説教することの好きな「大会社大銀行大スーパー」のトップのシンボルが、「ナショナル(現パナソニック)」つまり、松下電器の松下幸之助ではないのか。
説教を批判しながら、自分の発言は説教ではないと思っているらしいところが山本の限界というかモーロクである。
私には山本は数多いる御用評論家と同じ甘口評論家にしか見えない。固有名詞で批判しないから山本は訴えらえることもないノンキな爺さんだ。
「女に選挙権はいらない」と言い続けた山本は、女に選挙権を与えて何がよくなったか、と問いかけ、「ミノベが当選しただけじゃないか、野末陳平が当選しただけじゃないか」と受ける。
「ミノベは女のホルモン票で当選した。タレントに投票するのも女である」と言うが、中曾根康弘にも石原慎太郎にも、あるいはその子の石原伸晃にも女性票は入っているのではないか。
「五十歩百歩」という言葉がある。私はこの言葉の大切さを認めつつも、「五十歩」と「百歩」の違いを追いたい。それが批評というものだと思うが、横丁の隠居の山本には、そんなエネルギーは残っていないらしく、面倒臭くなると、すぐに「五十歩百歩だ」と切り捨てる。
ダメな男とダメでない女の違いを批判することなく、女はダメと決めつけるのである。
安部譲二は山本に師事し、山本の手によってデビューしたが、山本より安部の方がずっと踏み込んでいた。
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