混乱のシリアが再び内戦状態に陥ることを喜ぶのは誰か
今のところ、イスラエルは多方面に開いた戦端を何とか管理できていると報じられていますが、多方面からの攻撃を防ぎ切れておらず、イスラエル各地にそれなりの被害が出ていることと、防衛の要であるアイアンドームの在庫が(バイデン政権がイスラエルへの供与を控えていることもあり)懸念すべき水準に下がってきているようです。
今後、弱体化したとはいえ、まだまだ強いヒズボラや、永遠のライバルであるイランが満を持して反撃するような事態になれば、イスラエルも危機的な状況に追い込まれる可能性も否定できません。
今、イランが反撃を控えているのは、自身の革命防衛隊の弱体化が理由ではなく、反イランの色が濃いトランプ大統領をあまり刺激すべきではないという戦略的な思考が理由であるため、イスラエルはすでにトランプ大統領に救われていると見ることもできるかもしれません。
そのシリアを巡る中東情勢の混乱の火に油を注いでいるのが、シリア国内での主導権争いと隣国トルコの影です。
シリア内戦下において、反アサド勢力としてクルド人居住エリアで暴れていたSDF(シリア民主軍)は、その名の通りクルド人民兵組織人民防衛部隊(YGP)が中心で、その活動は米軍の支援を受けてきましたが、アサド政権が崩壊した今、HTS(シャーム解放機構)は、クルド人組織を忌み嫌うトルコ政府の影響を受け、「アサド政権はもう存在せず、SDFも我々も存在意義を大幅に変えなくてはならない。反政府武装組織の武装解除を進めるのと並行し、SDFも同じく武装解除して解体されるのが望ましい」と要求していますが、SDFが反攻し、SDFと別の反政府組織であるSDAとの間の緊張が高まり、そこにHTSをはじめとする武装組織が加わりかねない状況に陥っています。
この状況には国連のシリア担当特使であるペダーセン氏も懸念を示しており、「この緊張は国連をはじめとする国際的な復興支援を著しく遅延させる恐れがあるのと同時に、新たな内戦状態を生む極めて危険な状況になる恐れが高まる」と述べ、HTSのシャラア氏やトルコ政府、そしてSDFの背後にいるアメリカ政府などに介入を要請していますが、今のところ、緊張の緩和には至っていないのが実情です。
まさにアメリカとトルコの代理戦争の弊害がここで出てしまっています。
ところでシリアが混乱し、何なら再び内戦状態に陥って喜ぶのは誰でしょうか?
ロシア(プーチン大統領)とアサド前大統領ではないでしょうか。
今回のアサド政権の突然の崩壊は、シリアに軍港を持ち、アフリカに対する拡大の拠点としていたロシアにとっては大きな打撃となると思われ、かつロシアの面子を著しく傷つけるものと捉えられていますが、それは“欧米よりのシリア”が建設され、かつ安定的に運営されていくという条件が満たされることが基礎にありますが、今、その基礎が国内の勢力争いと関心国の代理戦争によって脅かされているため、ロシアにとっては、混乱に乗じて、シリアを再び獲得する機会を生むことになります。
その証拠に、アサド前大統領亡命後、ロシアの艦隊はシリアの軍港を離れていますが、それはロシアには帰らず、かつウクライナ戦線にも投入されずに、いまだにシリアの沖合に編隊を組んだまま停泊したままにされています。
これはあくまでも憶測にすぎませんが、シリアおよび周辺国の混乱が深まり、介入の隙を見つけたらすぐにロシア艦隊がシリアを急襲して再びロシアの権益化することを狙っているのではないかと疑っています。
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