シリアの今後のカギを握るトルコ政府の出方
新たな内戦で反政府・反アサド派同士で争わせ、互いに力を削ぎ合ったところで一気に介入して駆逐し、フラットにしたシリアにまたアサドをreinstateする(再配置する)ような事態を計画しているかもしれません。
まあ、アサドを見限って、他でもいいのですが、まだ親アサド派も数多く残り、混乱を避けて地下にもぐっているとも言われているので、追放したはずのアサドが再び君臨するような事態も、全くないとは言えないと、勝手に想像して恐れています。
そのカギを握るのは意外にもトルコ政府の出方です。
現時点では、エルドアン大統領はアサド前大統領を嫌い、アサド政権崩壊を喜び、ゆえにHTSとの距離感を詰めて、新生シリアにおける影響力の拡大を狙っていますが、その狙いである「クルド人勢力の壊滅」が実現されるのであれば、その担い手は誰でもよく、仮にそれがロシアが指名した誰かであっても、最悪の場合、バッシャー・アル・アサドであってもいいのではないかと考えています。
もしシリアが再度混乱に陥り、制御不能に落ちった時にロシアが介入し、クルド人勢力への攻撃をトルコに容認したら…何が起きるかわかりません。
それを食い止めるにはアメリカの積極介入が必要になるのですが、先述の通り、トランプ次期大統領は「シリアにアメリカがコミットすることはない」と公言しており、かつバイデン大統領の命令で行われた米軍によるイドリブ県への空爆を非難していることから、“シリア”にトランプ政権が積極的にかかわることは考えづらいのではないかと感じます。
もちろん、イスラエルの隣国でもありますので、過剰なまでにイスラエルに肩入れするような中東政策を取って、代わりにアラブを敵に回すという大きなギャンブルにでることを決意するなら、イスラエルを後押しする形で“シリア”に介入することはあるかもしれませんが、直接的な介入はないものと思われます。
ここで不思議なことにカギを握るもう一つのエージェントが、ロシア・プーチン大統領です。
それはなぜか?
プーチン大統領を巻き込み、自身(トランプ大統領)の側につけておかないと、ロシア・ウクライナ戦争の停戦協議をうまく進めることができない恐れがあるからです。
もし就任後すぐのウクライナ戦争の停戦協議の際に、トランプ大統領とプーチン大統領の間で“シリア”もウクライナ停戦を巡るディールの一つに加えられた場合、勝手な想像ですが、トランプ大統領はシリアを切り、ロシア・ウクライナの停戦を優先する可能性がある気がします。
その際、プーチン大統領は、アサドを切っても、シリアを親ロシアに戻す工作をするのではないかと思われます。
実際にどうなるかはわからないのですが、シリアを巡るやり取りと、ロシア・ウクライナ戦争を巡るやり取りは、別の案件として切り離すことができるものではなく、パッケージで扱われる可能性が高まってきます。
そうなると、イスラエルが絡む中東情勢の行方も、このパッケージに関わることになり、トランプ大統領は多重的なディール・メイキングを強いられることになりますが、果たしてトランプのアメリカにそれが仕切れるでしょうか?
もしYESなら、それこそノーベル平和賞受賞の最有力候補に挙がることになりますが、ロシア・ウクライナ間の紛争を停戦に導き、イスラエルに圧力をかけながら中東情勢の安定化に臨み、同時にアジア太平洋地域における中国の伸長と、前政権時とは比べ物にならないほど軍事力を高め(自分は強いと勘違いしている)北朝鮮の予測不可能な動きに対応することを強いられる現実をどう受け止め、manageするでしょうか?
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