SNS全盛の現代社会にあって、良くも悪くも世間を大きく騒がせる「インフルエンサー」なる存在。そんなインフルエンサーについて学ぶ専門コースがアメリカの複数の大学に新設され、早くも話題となっています。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野さんが、経済規模を含めたインフルエンサーを巡る現状を詳しく紹介。その上で、インフルエンサーについて大学で学ぶ是非を考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:米大学でインフルエンサーの専門講座を新設する動き
プロフィール:辻野晃一郎(つじの・こういちろう)
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。
教えてもらえばなれるもの?アメリカの大学で「インフルエンサー専門コース」新設の動き
「インフルエンサー」という言葉は別に新しい言葉ではありませんが、盛んに使われるようになったのは、やはりSNSが普及して無名の一般人の中からフォロワーや「いいね」、ページビュー等を増やして稼ぐような人たちが出てきてからと言っても良いでしょう。
日本では、7月の都知事選で石丸現象が騒がれたときに、ユーチューブなどの「切り抜き」が話題になりましたが、切り抜きをやる人たちの目的は金銭です。またその後、11月の兵庫県知事選挙では、立花孝志氏が世間を騒がせましたが、いわゆる迷惑系ユーチューバーも、動画をバズらせて収益を得ることを目的にしています。選挙荒らしで幹部が逮捕された「つばさの党」なども同様です。
迷惑行為の問題はともかく、オンライン販売などでもインフルエンサーはひっぱりだこです。インフルエンサーの経済規模は、2024年のデータで、すでに世界で2,500億ドル(約39兆円、1USD=157円)にのぼると見込まれていますが、ゴールドマン・サックスは、2027年までに5,000億ドル(約79兆円)を突破すると予想しています。
そうなってくると、もはやインフルエンサーは、単なる副業や小遣い稼ぎの手段としてだけではなく、正式な職業やキャリアパスのひとつとして認知されるようになりつつあります。実際、Z世代の半数以上がインフルエンサーを現実的なキャリアオプションと考えているそうで、アラバマ大学やコーネル大学など米国の一部の大学では、専門のコースを新設してそのスキルを教えようという動きが出てきています。
最近、名門ハーバード大学でも、5億人以上のフォロワーを持ち、年間8,500万ドル(約133億円)稼ぐとされる人気ユーチューバーのMrBeastをゲスト講師として招き、その知見を学生たちに語ってもらったそうです。
米国労働統計局は、インフルエンサーを含む「芸術、デザイン、エンターテインメント、スポーツ、メディア職種」の2023年の増加率が13%と、他の職種を大きく上回ったと発表しています。また、米エンターテインメント雑誌のハリウッド・リポーターの記事によると、Z世代だけに限らず、18~60歳の米国人の54%が、インフルエンサーなどのコンテンツクリエイターとして生計を立てられるなら、現在の仕事を辞めたいと考えているとのことで、にわかには信じ難い話です。
この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ
インフルエンサーとして稼ぐために必要な能力
稼ぎの大きな人気ユーチューバーが目立つあまり、動画を制作して配信するだけで簡単に稼げると思われてしまうのかもしれませんが、ユーチューブのトラフィックを収益化するプラットフォームのGoogle AdSenseによると、ユーチューバーで月5,000ドル(約79万円)以上稼ぐ人は全体の0.3%にすぎません。チャンネル登録者数1,000人程度のユーチューバーは、AdSenseから毎月30~300ドル(約4,700~4万7,000円)程度の収益を得ていますが、登録者数が1,000人以上のチャンネルは全体のわずか9%程度です。
大学でインフルエンサーのコースを新設し、そのノウハウやインフルエンサーエコノミーについて教えることの是非については賛否両論さまざまな議論があるかと思いますが、新たに出現した巨大な市場や経済モデルについて正しい理解を広めようという試みは、時流を理解する上でも将来に備える上でも決して悪いことではないと思います。
ただ、いくら大学でインフルエンサーになるための勉強をしたからといって、もちろん誰でもがMrBeastや、米大統領選にも影響を与えたジョー・ローガン並みに稼げるインフルエンサーになれるわけではありません。しかしそれでも、ブランディングやマーケティングの観点から、そのようなスキルを持つ人に対する企業のニーズは高止まりしているので、就職には有利に作用するかもしれません。
インフルエンサーとして稼ぐためには、継続して魅力的なコンテンツを制作・発信できる力が最も重要ですが、それ以外にも、契約交渉のスキル、知的財産権への理解、持続可能なビジネスモデルを構築するスキルなど、多方面にわたる能力が求められます。単に知名度を上げ人気を得るためには迷惑行為も辞さないというようなスタンスでは、結局長続きせず、長期にわたって影響力を保ち続ける上では、高い倫理意識やコンプライアンス意識、リスク管理能力も求められます。
インフルエンサーは、大学にとっても新たな研究・教育の対象であると同時に、学生にとっても、十分に学ぶ価値のある現実的な分野だと思います。
※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年12月27日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はぜひこの機会にご登録ください。