日鉄のUSS買収はアメリカ鉄鋼産業に対する「延命治療」だった
では、日本や米国は中国製の安くて品質の良い鉄に押されっぱなしであるかと言うと、そうでもありません。
日本や米国といった、比較的昔から大量に鉄を作って使っていた国には別の資源があります。それは屑鉄です。屑鉄を溶かして再利用することは大いに可能であり、実際に日本や米国ではそちらの方が活発です。
この屑鉄という資源の利用に溶鉱炉は必要ありません。
溶鉱炉(高炉)の場合はコークスを燃やしてできる摂氏2000度の熱で、鉄鉱石から鉄を抽出します。ですが、鉄だけでできている屑鉄を溶かすには摂氏1000度程度で良く、これは主として電炉(電気溶解炉)で対応可能です。
電炉というと、電気を食うのでコストが心配になりそうですが、実際は高炉のコストに比べると4分の1程度で済むのです。ですから、日本でも米国でも電炉は今や主流となりつつあります。
反対に中国の場合は、鉄の大量消費を始めてからの年数が短いので、電炉の原料である屑鉄は多くはありません。
では、アメリカも日本も高炉は不要かと言うと、そうでもないのです。屑鉄を原料とする電炉の場合は、どうしても純度を高める際に限界があります。
では、どんな使途が純度を要求するのかというと、ズバリ自動車のボディに使用する高張力鋼板です。より薄くて可塑性があり、同時に強度もあるというような高級品は、電炉では対応できません。
今回のUSS買収というのは、国際的にみて競争力を失いつつある米国USSの高炉ビジネスについて、とりあえず日鉄がマネジメントをすることで、生産性を向上して延命させようという話、非常に単純化すればそのような話になります。
ここで「延命」という影のある表現をしたのは、時間的な期限があるからです。高品質の高張力鋼板という「商品」が必要な時代は、いつまでも続くわけではありません。何よりも自動車のボディの素材がどんどん多様化しているからです。