「奴らにリードを許すな」トランプも強く警戒。中国がAI技術で“アメリカ最大の脅威”になる日

 

グーグル元CEOも募らす「中国の猛追」への危機感

現状、AI技術に関してはアメリカが世界を大きくリードしている。しかし、中国の猛追は、いまや先行するアメリカにとって重大な脅威になりつつある。

1月9日、アメリカの公共放送PBSの番組に出演したグーグルのエリック・シュミット元CEOは、「以前は中国に(アメリカは)2年ほどリードしていると考えられてきた。しかし、ここ6カ月ほどで(中国が)追い付いてきた」と危機感を募らせる。

シュミットが語った「追いついた」とは、AIプログラムの一つ「DeepSeek(ディープシーク)」のことを指しているが、それは「バイデン政権がチップを遮断したにもかかわらず開発された」というから悩みは深い。

半導体を遮断されスマートフォン製造の道を断たれたはずのファーウェイが、数年後に独力で復活してしまった過去とも重なるが、こうした中国の躍進をバイデン政権はどうみてきたのか。

レモンド長官は昨年12月6日7日、レーガン・ナショナル・ディフェンス・フォーラムでそのことを振り返っている。

バイデン政権下での対中政策のキーワードは「精密攻撃」と「同盟国との協力」だ。

精密攻撃が意味するのは輸出規制で、その効果を徹底させるために同盟国との協力が必要だったとレモンドは語る。

「私たちは歴史上最も強力な輸出規制を実施した。在任中は、主に半導体と半導体製造装置の輸出を規制してきた。(中略)リーダーシップを発揮し、同盟国と協力して、中国が欲しがっている最も高度な技術を拒否することが大切だ」(レモンド長官)

だが、レモンドの語る「拒否」は、日本人の多くが期待するような「中国の衰退」を意味するものではない。

レモンドは「中国を抑えることも重要だが、それは単なるスピードバンプ(スピードを遅らせる装置)に過ぎない。中国を遅らせることはできるが、中国を打ち負かすことはできない」とはっきり語っている。

中国を「打ち負かす」ためにはアメリカが中国より速く走ることが必用であり、そのために「アメリカに投資し、アメリカのテクノロジーに投資し、インフラに投資し、人材に投資する」(レモンド長官)というのが彼女のロジックだ。

同時にレモンドは、「(中国との)デカップリングは愚の骨頂。デカップリングは愚かな行為」と切り捨てる。

こうした政策が、関税を最重要視するトランプの下でどのように引き継がれるのか。現状を見る限り、積極的ではない。

もしトランプが前政権の取り組みに冷淡な態度を取れば、それはスピードバンプとしての効果さえ発揮されなくなるかもしれない。

トランプは17日、習近平国家主席と電話会談を行った。そのなかで、「習主席との素晴らしい関係を大切にし、今後も対話と意思疎通を続けていきたい。(中略)アメリカと中国は今日、世界で最も重要な国であり、長期にわたる友好関係を保ち、世界平和の維持のために協力すべきだ」と述べたという。

もちろん、この穏やかな会談も米中関係の明るい未来を担保するものではない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年1月19日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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