職人技に目を向けず「明日から稼げる!」が横行する日本企業の未来が“お先真っ暗”なワケ

 

一方、国が後継者問題に取り組むようになったのは20年です。はい、5年前の2020年4月に「事業承継・引継ぎ支援センター」を開設し、後継者不在の中小企業のM&Aにおけるマッチング支援をスタートしました。しかし、そのM&Aでのトラブルが多発していているのです。

むろん成果が出ている側面もありますし、企業存続により雇用が守られたケースもたくさんあります。しかし、株券や現金だけを譲渡させ、事業を放置したり、借金を払わないなどの事案があとを断ちません。

「昔はね、取引先がみんな家族みたいだった。わしらは何やかんや言っても職人です。それを大企業さんがサポートしてくれた。うちのような零細企業も独自の技術を生かして付加価値を生み出すことができた」ーー。

私はこれまでこういった話を何度も聞いてきました。かつて日本では、大企業ができないことに中小企業が力を注ぎ、中小企業ができないところを大企業が補い、それぞれに役割を全うし「いいモノを作ろう!新しいモノを作ろう!」と目標を共有してきました。

中小企業は下請けじゃなく大切な同志。上と下ではなく、大企業と横で繋がっていたのです。

しかし、グローバル化、リーマンショックと不景気が続き、両者の関係は冷えきりました。大企業は優越的な立場に立ち、アジアの“下請け“と価格で競わせたり、納期を短縮させたり、互いを結びつけていた「信頼の糸」をないがしろにしたのです。

せめて20年、いや15年前から、大企業が職人さんの技術を伝承したり、国が職人さんの技を習得し、新時代に進化させる教育に投資をしていれば、新たな産業が日本で生まれ、日本社会の未来を照らす「光」になっていたはずです。

実際、スイスでは未来を見据えて、教育と技術伝承を進めるとともに、基礎研究を徹底して支援し、市場までつなぐ取り組みを進めてきました。国が支援する基礎研究費は他国を大きく引き離し、GDPの0.9%に達しています。

日本の「明日から稼げる!」目先教育とは大きな違いです。「続ける力」「続いてきた力」に目を向けない限り、日本の未来は暗い……、そう思えてなりません。

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