企業や組織に存在するハラスメントを引き起こす責任
フランスでは2001年に職場におけるモラハラ防止策を盛り込んだ「社会近代化法」が成立し、02年には「労使関係近代化法(労働法)」で企業内におけるモラハラを規制する条文を導入。さらには刑法にも罰則規定を設けました。
その一方で、徹底した「人権教育」を小さい頃から行い、経営者には「人権侵害」を防止する経営を求め続けています。17年に制定された人権DD法(企業注意義務法)はその一つです。
これは国内の大企業を対象に、人権侵害や環境被害を防止するためのDD計画の策定・実施・開示を義務づけるもので、複数のNGOの提言により議会で議論され、成立しました(DD=デューディリジェンス)。
また、職場でパワハラが発覚した際には、個人間の問題ではなく会社組織の問題として経営側にその責任を求めます。
先の労働法では、「従業員は、権利と尊厳を侵害する可能性のある、身体的・精神的健康を悪化させるような労働条件の悪化をまねくあるいは悪化をさせることを目的とする繰り返しの行為に苦しむべきではない」とし、「雇用者には予防義務があり、従業員の身体的・精神的健康を守り、安全を保障するために必要な対策をとらなければならず、また、モラルハラスメント予防について必要な対策を講じなければならない」と、企業に予防・禁止措置を課しています。
DD法も、その流れの中で成立しました。
日本の法律の問題点はこれまでも繰り返し指摘してきましたが、日本に徹底して欠けているのが「組織的ハラスメント」の考え方です。問題が起こるたびに「加害者」と「被害者」のことばかり報じられますが、こういった問題を引き起こす責任は企業や組織にあります。
フランスで「モラハラ(パワハラ)」が社会問題化するきっかけになったのは、精神科医のマリー・F・イルゴイエンヌの著書『Le Harcelement Moral: La violence perverse au quotidien(『モラルハラスメント・人を傷つけずにはいられない』)』がベストセラーになったことです。
それまで多くの人たちが「職場のいじめや暴力」を経験したり、目撃していましたが、その“問題”を“問題にする”ための言葉がなかった。そこにイリゴイエンヌ氏がもともと夫婦間の精神的暴力を示す言葉だった「モラハラ」を職場で日常的に行われているイジメに引用したことでくすぶっていた問題に火がつきいっきに法制化へと国も動き出しました。
「組織的パワハラ(モラハラ)の考え方も、「企業経営がモラハラを助長している」というイリゴイエンヌ氏の訴えが、法律で明文化された結果です。
現状を打破するためには、明確にハラスメントを禁止することを定めた法律を作る。企業にハラスメント防止措置を課すのみではなく、ハラスメントが起きた場合の「組織の責任」を明確にすることです。
みなさんのご意見や体験など、お聞かせください。
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