(1)GDPを損なう空洞化~日本経済を海外に売り渡した「戦犯」
1つ目の問題は、空洞化です。今回、日鉄のUSスチール(USS)買収が問題となり、石破総理とトランプ大統領の首脳会談の話題にもなりました。日本国内でも大きな関心があります。
ですが、仮に日鉄がUSSを買って、経営の立て直しに成功したとしても、そこで生まれた利益が日本に還元されることはわずかだと思います。
何が起きるのかというと、USSを含めた日鉄の連結での業績がアップするだけです。その結果として株価は上がるかもしれませんが、株主の多くは外国勢だったりします。
つまり、日鉄と言う名前がついていても、海外で生産して海外で販売している場合は、その日本国内のGDPへの寄与は限られるのです。
自動車メーカーなどはその典型です。多くの場合は海外比率が80%前後になっています。ということは、どんなに頑張っても80%のカネは海外で回るだけです。株価も海外で形成されて、配当も海外に流れます。確かに設計図を書いたのは国内かもしれませんが、そのライセンス料は帳簿上は国内に計上されても、キャッシュは海外でグルグル回るだけです。
同じような話として、エレクトロニクス関連の中国での生産がどうとか、欧州で大規模な鉄道車両の受注があったとかいうのもそうです。後者の場合は公共事業ですから、必ず現地生産が義務づけられるわけで、結果的に日本のGDPにはなりません。
とにかく、GDPを優先するという発想は、日本発の多国籍企業にはないし、その親睦団体である財界にもありません。そして、その財界の支援を受けている自民党も危機感が薄いと言えるでしょう。
政治家ということでは、例えば、日本経済が斜陽になっても、いつまでもODAを止められないのは、キックバック利権があるというだけではないともいます。何よりも、ODAを持って政治家が対象国を訪問すると歓待される、これが政治家の醍醐味と言うことになっている可能性があり、だからこそ止められないのだと思います。
現地生産も同じです。企業そのものは、よりコストを圧縮して為替変動を避けることができるので海外進出して、市場となる国や地域で現地生産をするのは合理的です。ですが、例えばアメリカのある州から「工業団地を造成するので、ぜひ日本のメーカーに」などと誘致を受けると、企業だけでなく政治家もホイホイその州に出かけて起工式に参加して、チヤホヤされるのです。
そう考えると、この空洞化は政財界の共犯関係によって生じているとも言えます。何が「犯罪」なのかというと、国内雇用がどんどん切り捨てられる点です。そんな中で、国内に残るのは逆に零細企業によるネジとか素材関連の利幅の薄い産業が主となり、そこでは日本人のフルタイムの給料が払えないので海外研修制度を悪用したりしています。
その全体の構造がおかしいのだと思います。例えばですが、最先端の半導体製造、最先端の半導体製造マシンの製造などでは、かつては日本は世界一だったのです。ですが、現在はそのノウハウは消滅してしまいました。
何が問題なのかというと、ユーザーの多くは英語で仕様の相談をするし、極めて高度な製造工程の管理は「英語のできる理系人材」が必要なのに、日本の場合は極端にこれが薄いからです。
ホイホイと儲かっている部分を外に出すからには、より最先端の、より高付加価値の産業を国内で養成しないといけないのですが、政財界が一緒になって、これをサボってきたわけです。この問題を根底からひっくり返すような「ジャパン・ファースト」経済の発想が何としても必要だと思います。
日本型の絶望的な空洞化、つまり「外に出したら何も残らなかった」という流れは、失われた35年の間、一直線に進んできました。もう断ち切る時期だと思います。









