米中対立の枠組みでとらえるな。中国・王毅外相が語った「遠くの親戚より近くの隣人」が意味すること

 

「中国の理想」に最も近い日中韓での関係強化

またアメリカがゲームチェンジャーとして関税カードを乱発したとしても、あらかじめ3カ国という「枠」がはめられていれば、日中韓の間では、ある程度安定した貿易環境を維持できるというメリットもある。

このことは当然、中国にとっても大きなメリットなのだ。

さらに中国の視点から見たとき、日中韓の関係強化が理想的なのは、各国の政治状況の変化の影響を最小限に抑えられるというメリットがあるためだ。

例えば、韓国の現状だ。

中国はいま、韓国とフィリピンの内政の不安定さを懸念している。それが外交を揺るがす問題をもたらしかねないからだ。

非常戒厳を発動した尹錫悦大統領が弾劾され、その正当性を問う憲法裁判所の判断が待たれるなか、ソウルの街では大統領支持派と反対派が激しく対立している。

尹大統領支持派の集まりでは韓国の太極旗に混じって多くの星条旗が見られるように、政局と外交は韓国では不可分なようだ。

中国にしてみれば、尹大統領が復権してアメリカへと深く傾倒してゆくことは悪夢としても、野党が政権を取り中国との関係を深めてくれたとしても、それは満点とはいえない。

むしろ、どんな政権が誕生しようとも安定した貿易の環境が計算できることこそ望ましい関係なのだ。

その理想に最も近いのが日中韓での関係強化なのである。

日本でも現在、石破政権の支持率が下がり、自民党が安定した議席を維持し続けられるどうかも不透明になってきている。そうだとすれば、なおさらだ。

つまり、日本の視点からだけではなく中国から見ても日中韓の関係強化は国益に沿うものだということだ。

中国が日中韓を積極的に進めようとしていることは、対日関係の変化からも見ることができる。中国はいま、日本に対する不満の表明をごく狭い範囲にとどめようとしている。

これはある意味、バイデン政権が進めた先端技術の囲い込み政策「スモールヤード・ハイフェンス」と似ている。小さな範囲を区切って強く対応する代わりに、広い範囲で穏やかに対応するやり方だ。

では、何をその小さな範囲に入れるのか。明らかなのは台湾問題であり、もう一つは少数民族問題だ。

とくに台湾問題は取扱注意だ。いくら中国が日中韓の役割に期待するといっても、台湾問題に強く踏み込めば中国は態度を硬化させる。そのシグナルを日本がどう扱うのか。慎重に考える時期にきている。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年3月23日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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