中国に歩み寄らざるを得なくなったトランプ
その揺り戻しか、4月22日にはトランプ自身も「145%の関税は高すぎる」との認識を示し、その後「そこまで高くはならないだろう。大幅に下がるだろうが、ゼロにはならない」(CNNなど)という見通しを語りと中国の関係の修正を試みた。
トランプ関税は、ほぼ全世界を対象とした相互関税が株価の乱高下や債券市場の動揺を招き、調整を余儀なくされた。その後、ベッセントが「『同盟国と貿易協定を結び、その基盤を築いてから、中国に対して不均衡な貿易構造を是正するよう集団でアプローチする』との構想を示し」(Bloomberg 4月9日)、関税政策の意図が、あたかも対中包囲網であったかのように軌道修正されたが、それも束の間、今度はその対中関税での歩み寄りが示された形だ。
トランプ政権内部からは「トランプ大統領は中国に対するスタンスを軟化させたわけではない」(キャロリン・レビット報道官)とか、「トランプ大統領から一方的に対中関税引き下げ案を提示することはない」(ベッセント)と、あくまで強気な姿勢を崩していないとの情報が発信され続けているが、態度の変化は明らかだ。
なぜトランプは変わったのか。
米メディアの多くが指摘するのは、発言の前日(21日)に行われた企業トップらとの会合の影響だ。
集ったのはウォルマート、ターゲット、ホームデポといった巨大小売りチェーンのトップである。3人がトランプに伝えたのは、「(中国との貿易戦争のような状況が続けば)数週間で店の棚から商品がなくなってしまう」という彼らの危機感だった。
実際、先行き不透明感が漂うなか、中国の製造現場からは「アメリカからの注文がキャンセルされた」という嘆きの声が多く伝えられている。
これが中国へのダメージとなっているのは言うまでもないが、その一方でウォルマート、ターゲット、ホームデポのトップが懸念したように、巨大小売りチェーンの棚から商品が消え、値段が一気に吊り上がるような事態に陥れば、アメリカ社会に大きな不安が広がることは避けられない。
GDPの70%以上が個人消費というアメリカ経済にとれば、中国が被る以上のダメージとなりかねないのだ。
一方の中国は、対米貿易で行き場を失った商品を国内でさばくための支援策に政府が力を入れてきた。現在、6つの電子商取引のプラットフォームが国内販売の窓口を開き、6,000を超える商社とつながり、対米貿易のマイナスを補おうとしている。
中国が今回の米中関税戦争にあまり慌てていないように見えるのは、実はこうした体制を8年間かけて整えてきたことがある。
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