「日本人ファースト」のキャッチコピーを掲げ、参院選の台風の目となっている参政党。代表を務める神谷宗幣氏は一貫して国民に寄り添う姿勢を強調していますが、果たしてそれは額面通り受け取るに足るものなのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、神谷氏の街頭演説の内容を引いた上で、彼の思想の根底に「強烈なナショナリズム」が存在すると指摘。さらに同党が抱え込む「古めかしい右翼思想」に対して警戒感を示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:国家主権を謳う参政党は本当に国民の味方なのか
参政党は本当に国民の味方か。国家主権を謳う神谷代表に感じる「明治憲法への回帰心」
参院選がスタートする前、参政党の神谷宗幣代表はある秘策を練っていた。無所属の現職参院議員1人を党に引き入れ、それまで4人だった党所属の国会議員を5人に増やす。そうすれば、参政党に対するマスメディアの扱いが劇的に変わるはず、という算段だった。
ターゲットは梅村みずほ参院議員だ。改選期を迎えた梅村議員は、日本維新の会に所属していたが、参院選大阪選挙区の公認候補者2人を決める“予備選”に敗れたため離党していた。「比例代表候補にするから入党してほしい」という神谷氏からの働きかけは渡りに船だったに違いない。
「6月26日にお願いして、27日に入党手続きしていただいて、28日に入党確定。そういう時系列です」と神谷氏は語る。党内では梅村氏を「勝利の女神」と呼んでいるそうである。
6月30日のテレビ朝日「報道ステーション」。参院選に向けた党首討論の冒頭、大越健介キャスターが、参加した8つの政党について、出演の基準を説明した。
「公職選挙法の政党要件、つまり所属する国会議員が5人以上、そして直近の衆院選か参院選での得票率が2%以上、この2つの要件を満たした8つの政党です」
居並ぶ各党党首。自民、立憲民主、公明、維新、共産、国民民主、れいわ新選組、そして参政党。神谷氏にとっては「してやったり」の瞬間だっただろう。日本記者クラブの党首討論会も同じ顔ぶれだった。もちろん参政党が報ステや日本記者クラブの党首討論に呼ばれたのは初めてのことだ。
梅村氏入党より前、神谷氏がこれらの討論会に出席できるかを問い合わせたさい、テレ朝からも日本記者クラブからも、つれない回答が返ってきた。「得票率が2%以上」を満たし政党交付金を受け取っていても、「国会議員が5人以上」ではないからという理由だった。
昨年の衆院選から、そのようなルールになり、神谷代表は街頭演説などで怒りの声を上げていた。「以前は国会議員が一人でも呼ばれていた。急にルールが変るのは不公平だ。これでは議員数が多いところしか勝たないじゃないか」
梅村氏に目をつけて実現した「国会議員5人」の効果は絶大で、大手メディアが「参政党」を取り上げる“回数”も“量”も格段に増えた。驚くべきは有権者の反応だ。神谷氏は街頭演説などで次のように語る。
「テレビの討論番組に出演するようになったとたん、それまで1か月がかりで1万人ほど増えていたユーチューブ登録者が、2日で1万人増のペースになった」
これだけ聞いても、参政党の勢いがわかる。自民党や各メディアの情勢調査では、比例の投票先として、立憲民主と野党1位を争うほどだ。
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神谷氏が街頭演説で説明した「日本人ファースト」の意味
2020年に結党した参政党の原動力になっているのはSNSによる拡散だけではない。全国に289もある地方支部と150人に及ぶ地方議員の日常活動に裏打ちされている。5年でそれほどの政治基盤をつくりあげたのは驚異的だ。
参政党は45のすべての選挙区と全国比例に10人、合わせて55人を擁立している。目標とする「10議席」以上には楽々と達しそうな勢いだ。むろん、衆院では3議席しかなく、一気に国会活動の主導権を握れるわけではない。それでも、今の人気を保てるなら、決して侮れない存在になるだろう。
参政党のキャッチコピーは「日本人ファースト」だ。神谷氏は街頭演説で、その意味をわかりやすく説明する。下記はその一節。
「国民の暮らしをしっかりと守っていく。これをわれわれはやりたい。でも、なぜ国民の生活が貧困者が増えてきたか。その背景にグローバリズムがある。多国籍の大企業がどんどん世界の経済を席巻し、そこに富が集まって、国会議員への献金で規制緩和、自由化が進み、結局みんな貧しくなった」
「世界でこれに抗おうという政治の流れが生まれている。トランプ大統領をはじめ、ヨーロッパや南米でも、反グローバリズムの政党が力を持ってきている。課題意識は、我々と一緒だ」
「外国人の資本がどんどん入り、東京の不動産はもちろん、インフラ、水源、企業の株などがどんどん買われて経営者が外国人になる。そういったことに一定の規制をかけていこうというのが参政党の訴えだ」
アメリカのトランプ現象、イギリスのブレグジット、フランスのルペン現象と同じ潮流に属していることを神谷代表自らが認めているのだ。
その思想の根底に存在するのは強烈なナショナリズムだ。参政党が作成した「新日本憲法(構想案)」には、天皇が「元首として国を代表」し、「国は、主権を有し」とされている。国民に主権があるとは書かれていない。天皇に主権があった明治憲法への回帰をめざしているのだろうか。
参政党が伸びているもう一つの要因として、神谷宗幣という政治家の持つ演説力の凄まじさがあげられる。そのテンポ、迫力、熱量に聴衆の感情は揺さぶられる。
「再生の道」代表、石丸伸二氏の理詰めでクールなカリスマ性とは異なり、教祖的な吸引力がある。2012年、吹田市議を辞職し、自民党公認で大阪13区から衆院選に出馬したのも、安倍晋三元首相にその演説力を見込まれたからだろう。
だが、神谷氏と参政党に注目が集まれば集まるほど、ネットを中心に批判の声が高まっていることもまた事実である。反ワクチン思想とオーガニック信仰に対し、陰謀論だのカルトだのと激しく攻撃する勢力も存在する。
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参政党内でかつて起きていた「泥沼の内紛劇」
それと、気になるのは、内紛の歴史だ。神谷氏が党の発展のためにその知名度を頼った武田邦彦氏(工学者)や吉野敏明氏(歯科医)ら中心メンバーが神谷氏と対立し、次々と離党していった。武田氏は神谷氏のことを「大ウソつきだ」と言って憚らない。
神谷氏と武田氏、それぞれが語る“事実”を以下に並べてみた。まずは昨年の衆院選期間中、神谷氏の街頭演説での発言(概略)。
「22年参院選の前、武田氏から一緒ににやったらどうだと百田尚樹氏(現・日本保守党代表)を紹介された。23年のGW明けに武田氏から河村たかし氏(現・日本保守党衆院議員、当時・名古屋市長)の秘書と会うように連絡があった。武田氏が勝手に減税日本との合流話を進め、河村氏を参政党の代表にしようとしていたようだ。その後、武田氏が党の運営がおかしいと怒り、運営を自分たちに任せろと言い出した」
この文脈だと、武田氏が百田氏や河村氏と組んで参政党の乗っ取りをはかっていたようなイメージになる。神谷氏はさらにこう続ける。
「武田さんたちに党の運営を任せたらむちゃくちゃになる。無理だとはっきり言った。そのうち、神谷が党のおカネを何億円も横領しているとか、党の中に愛人を囲っているとかいう噂が流れ、その発信元をしらべたら武田氏だとわかった。8月末くらいから誹謗中傷がネットではじまり、それに機を合わせて日本保守党の結成準備が進み、参政党から党員をごそっと持っていった」
むろん、武田氏や百田氏はこれを否定している。武田氏が吉野敏明氏と対談した動画番組(24年9月27日公開)において語った“事実”はこうだ。
「22年の参院選後、神谷は事務局、僕らは地方選の応援演説にかけまわっていたが、党員が理由も告げられずに除名されていった。誰が決めているのかわからない状態だった」
「今日、明日、明後日とどんどん変わっていくウソをつく人だ。しばらくは我々“ゴレンジャー”中心で党運営していたが、だんだん神谷一人の党になった。みんなでやるんだと言っていたのに」
ゴレンジャーとは、党の看板的存在だった神谷氏、武田氏、吉野氏、松田学氏、赤尾由美氏の5人を指す。武田氏は5人の合議制で運営していた党が、しだいに神谷氏の独裁体制に変貌していったと主張したいようだ。
自民党の凋落と表裏一体の関係にある参政党の躍進
どちらの言うことが本当なのかは判断がつかない。参政党内にかつて泥沼の主導権争いがあったということがわかるだけだ。むろん神谷代表の人格を云々することはできない。気になる点をあげるとすれば、演説の中身があまりに耳あたりの良すぎること。たとえば、こうだ。
「一丁目一番地の政策は減税。国民負担率が46%なのを35%に下げる。これ、大きな改革ですよね。一番大きな減税を言ってるのは参政党です」
リベラルな生活者目線を強調して人々に安心感を与える。ほとんどの野党が減税を主張しているなか、どこよりも国民に寄り添っているような印象を広める。しかし、その根っこには、現行憲法の「主権在民」に反する古めかしい右翼思想を抱え込んでいる。左右を超えた主張といえば聞こえはいいが、やや危うさを感じないこともない。可燃性を帯びていかないよう願うばかりだ。
それにしても、参政党の街頭演説が盛況なのには驚かされる。自民党や国民民主党に愛想をつかした支持者が流れ込んでいるのは確かだろうし、政治に無関心だった層を掘り起こしてもいるのだろう。
参政党の躍進は、自民党の凋落と表裏一体の関係にある。自公で「50議席」という石破首相の目標は、いよいよ実現が怪しくなった。日本の政治は新たなフェーズに入ることになりそうだ。
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