ノーベル平和賞を諦めきれないトランプが狙うビックディール
そしてアメリカが直接に供与するわけではないという点は、パトリオットミサイルの追加供与が迅速に行えるかどうかという懸念を抱かせます。
特に先述の“50日間の猶予”のタイミングと比してどうなのか、つまりNATO経由の支援が間に合うのかが不透明と言わざるを得ないでしょう。
その点で、ロシアが慌てるような事態にはまだなっておらず、どこかでまだトランプ大統領がロシアのプーチン大統領との“特別な関係”を切る決断が出来ず、そして下世話な話ではありますが、イスラエルのネタニエフ首相がワシントンDC(ホワイトハウス)に持参したノーベル平和賞へのノミネートに対する色気に現れるように、何とか張りぼてでもビックディールを成立させたいという思いがあるように見えます。
本来の目的であったはずのロシアとウクライナ間の戦争の終結・停戦が、気が付けばアメリカの軍需産業を潤す利益誘導にすり替わっているようにどうしても見えてしまいます。
その矛先はNATO経由ウクライナのみならず、イスラエルの防衛システムの拡充と、あわよくばイランの脅威を煽って、サウジアラビア王国をはじめとするアラブ諸国への武器・弾薬・防衛システムの売り込みによる利益拡大、つまりアメリカへの利潤の還流です(そして自ら種を蒔いてしまった関税による不利益を相殺するための材料探しです)。
これまでのところ、イスラエルの暴走(アメリカの意図とは異なる)の“おかげ”もあり、アラブ諸国がイランと決別して、再度、対立構造が出来、イスラエル包囲網の成立を阻むというシナリオは成立するどころか、トルコも含めた地域の国々の反イスラエルの感情と体制を強化させる結果になっています。
その典型例がトルコです。
世界を驚かせたイスラエルとイランの「12日間戦争」(トランプ大統領がそう呼ぶ)において、イスラエルの空中発射型弾道ミサイル(ALBM)がイランの防空システムの破壊に成功した事例を目の当たりにし、トルコ政府は一気に防衛能力の大幅な強化に乗り出すことを発表しました。
皆さん、ご存じの通り、トルコはすでに防空システムを有し、さらには弾道ミサイルも多数保有するだけでなく、表現は悪いですが、NATO(アメリカ)の核兵器を領内に配備していることもあり、地域における軍事大国の地位を確立しています。
そしてナゴルノカラバフ紛争中にアゼルバイジャンに供与した無人ドローンや諸々の兵器、そしてウクライナに対してはドローン兵器を売りつけ、毎年2月にはイスタンブールで軍需産業の国際博覧会・フェアを開催するなど、世界有数の軍事産業を有する国となっています。
LAWS(自律型致死兵器システム)の世界のトップ3に君臨するだけでなく、短距離弾道ミサイル、準中距離弾頭ミサイル(MRBM)の開発も進み、さらには短距離から長距離の一連の防空システムを開発・配備ずみと言われており、今後、世界の不安定化の高まりに合わせ、一気に世界有数の武器の輸出国に躍り出ることも予想されます。
トルコと言えば、ほぼ等間隔でロシアとウクライナと“友好的な関係”を有し、現在も2国間の直接協議のお膳立てをしていますが、ロシアにもウクライナにもちゃんと武器・弾薬を売りつけ、人道的な被害が拡大する中、しっかりと戦争から儲けることも忘れていません。
また皆さんご存じの通り、国策とはいえ民間企業が行うアメリカの軍需産業の形式とは異なり、ほとんどの軍事産業の企業は国営またはそれに準ずる形式をとるトルコは、国が本格的に方針も決める姿勢を明確にしていますので、エルドアン大統領が行う紛争に対する諸々の発言の背後には、必ずと言っていいほどトルコの軍事ビジネスの匂いが充満しています(このようなことを言うと、また近々叱られるかもしれませんが)。
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